約 30,359 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5214.html
『絶対絶命』 季節は四季に含まれない梅雨の真っ只中にある。 肌にまとわりつく湿気に、生温い風が頬を撫でる。外を眺めれば雨がしとしとと降 り続けている。エアコン等の空調設備が整っていない北高では、この春と夏の節目の 季節独特の倦怠感を緩和する事は叶わない。 そんな状況が一つの懸案事項と重なり、キョンを憂鬱たらしめていた。 懸案事項というのは、本日の登校時、下駄箱の中に一通の手紙が入っていた事が 起因している。 内容は実に短絡的な物で、味も色気もあった物では無かった。だが、それ故に書か れた文面が際立っていたのだが。 (「あなたに話がある。放課後1年5組にて待つ」) 何処かで似たような文面を見た憶えがあるのは記憶違いではないはずだ。そう、長 門有希が書いた栞に似ていた。彼女が書いたのは、要点のみを繋いだ短絡的なもので あったが、直筆だろう、明朝体の完成されていた字体が整然と書かれていた。 栞のそれに似ていたのだ。 (こいつは……、新しい宇宙人の陰謀か……、はたまた謎組織現る!とか、異世界か ら人型を装った悪魔が……、あほらしい……) 己の途方のない飛躍しすぎた思考に辟易とし、自嘲気味に口端を歪めた。 それに、文体や字が似ているからというだけでは何も解決される訳ではない。パソ コンやワープロを使えば整然とした字を作るのなんて造作もない事だ。 というか、やっぱり長門よ。ワープロでも使ったのか? キョンは溜め息を洩らしながら天井を仰いだ。天井の節目をなぞる様に視線を巡ら せ、深い溜め息と共に、がくりと肩を落とした。 (まあ、考えすぎ……だろう) どうにも、最近立て続きに在った非現実的な人物の登場やら、 閉鎖空間 という涼 宮ハルヒの造り出した――現実世界をトレースした位相空間――に連れ込まれる。な どという、一生の内にするかしないか、という程の事象が立て続けに身の周りで起き ていた為か、それが当たり前に存在するモノ、という認識を持ってしまった為……か。 上半身をよじり、後ろを振り返る。 湿気のせいで蒸し暑い教室。窓際も例外ではない。汗が滲んだ額と頬に艶な髪を張 り付かせ、むくれっ面で頬杖を付いて外を眺めている少女、涼宮ハルヒを横目で見た。 (よく解らんが、こいつが全ての元凶?何だよな……) 怪訝な視線を向けるキョンに気付き、ハルヒが「何よ」と憮然とした態度で構える。 「何でもないさ」 「そっ」 最近、ハルヒのキョンに対する態度が素っ気ないものになっていた。それは周知の 事実になるのに、そう時間はかからなかった。 話題性に事欠かないハルヒではあるが、最近は神妙な面持ちで窓を眺めている事が 多い。 SOS団兼文芸部部室に於いても、以前のバイタリティを遺憾なく発揮する事も無く、 無為な時間を過ごすに至っていた。 どうしたものか。だが、詮索する様な真似をする気は無いし、ハルヒが素直に答え るとは思えない。 (俺の出来る事なんて……) 何もないんだな。 漠然としてはいたが、しかし唐突に理解した現実。それのなんと虚しき事か。 自分がこれから先どうしたいのか。此処(SOS団)に居ていいのか。只の人間が、 彼女を取り巻く異様な環境に関わっていいものなのか。正直、分からなくなってし まっていた。 もう一度、ハルヒを見る。 ハルヒはキョンの顔を訝しげに見つめ、「あんた」と口にし、区切る様に口を噤む。 そこで彼女の言葉を遮る様に授業の終りを告げるチャイムが鳴る。 ハルヒは二の句を告げる事が出来なかった。キョンが逃げる様に、教室を抜け出し ていたからだ。 そんな、キョンの背中を見送り、授業中に振り向いた彼の顔を思い出し、胸が痛い 程締め付けられた。 (何て……顔してんのよ……) ハルヒは、見ていた。 あれは、何かに迷っている人間の顔だ。以前の自分がそうであった様に。 (でも、あたしは、あたしは……) 結局、あいつに何もしてやれないんだから。 だから、何も望んではいけない。 そう、無理矢理自分に言い聞かせた。 * 放課後、一応は文芸部室に顔を出したキョンは、しかし長居はしなかった。 相も変わらず、馴染みの席に付き、読書に励む長門有希が、「今日は誰もいない」 と本日休部を告げる一言を聞いたからだった。 朝比奈みくるはHRが終わるも早々に、文芸部室に来るのが既に習慣となってはいた が、長門有希と二人きりという状況に耐え切れなくて帰ってしまった。 古泉一樹に至っては、 バイト と称する閉鎖空間の鎮圧に赴いている。 「あいつが部活を休む何てな……、珍しい事もあるもんだ」 涼宮ハルヒ、SOS団団長である彼女は、退屈で居ても立っても居られなくなったり、 不機嫌になって帰る、という事は何度かあったが、部活動を完全に休むという事は無 かった。 部室棟と校舎を繋ぐ渡り廊下を抜ける際、いつの間にか雨が止み、雲の切れ間から 光が差し始めたのに気付く。 「雨……、止んだのか」 しかし、雨は止んでも己の心に渦巻く鬱々とした気分は晴れる事は無かった。 茜色の陽光が差し込む廊下を歩きながら、目的の場所へと向かう。 「あれ、キョン君。どうしたのこんな所で?」 「朝……倉……?」 全く彼女の接近に気付かなかった。 周りに注意を払えていない証拠だ。 「どうしたの?酷く疲れた顔をしてるけど……」 「いや……、何でもない。気にするな」 朝倉涼子、彼女とは浅からぬ縁があるキョンは、数日前に二人で長門有希の私服を 買いに行った事がある。 その途中から、涼子は著しく様子がおかしくなった。 以来、涼子は普段通りに接触はしてくるが、キョンは彼女に対して踏み込む事に億 劫になり、一線を引いてしまっていた。 「そう……。悩みあるなら、私で良ければいつでも聞くからね?」 「あ、ああ……。すまない」 「キョン君……、私ね……。私は……ね」 涼子は、何かを伝え様としては止め、というのを繰り返す。 その表情は切迫していた。 その痛々しい姿を見据える事が出来ず、視線を外してしまう。 「ごめん、朝倉。また今度な」 そう言って、駆け出す。 (また逃げ出すのか、俺は!) 自分の情け無さに嫌気がさしてくる。しかし、今のキョンにはその選択しか無かっ た。 「キョン君……私は……」 人間じゃ無いんだ。 涼子はそう、消え入る声で呟いた。 やっと、真実を告げる勇気が出来たのに。どうして上手くやれないのだろう。 唇を血が滲む程強く噛み締める。 胸が締め付けられ、喉が詰まる様な異質な痛みに戸惑いながら、朝倉涼子は遠ざか るキョンの背中を多発する処理不可のエラー警報が忌々しく脳内で鳴り響く中、見え なくなるまで眺め続けた。 * いざ、教室の前に立つと急に緊張が身体を萎縮させる。それが己のクラスであろう とも。喉は渇き張り付いているし、動悸も8ビートを刻んでいる。手紙の主がどんな 人物か、やはり手紙だけでは推測が付かず、谷口辺りの悪戯である事を切に祈りなが ら引き戸に手をかけた。 ガラッ、と戸を開き、人気の無い教室に足を踏み入れる。辺りに目線を泳がせるが、 待ち人はおろかそこには誰も居なかった。 「……何だ、結局は悪戯か」 ほっと胸を撫で下ろす。 正直、緊張していた分得られた安堵感は以外にも大きかっ た。それと同時に拍子抜けしてしまったが。 「……帰るか」 踵を返し、教室を後にしようとする、が。 「遅かったわね」 唐突にそれは聴こえた。 心臓が鷲掴みにされたかの様に縮小し、身体が跳ね上がる。身体中の鳥肌が総立ちし、 怖気とはこの事を言うのか、と肌身で感じながら、恐る恐る振り返る。 はたして、そこには北高のセーラー服を纏った栗色のツインテールの少女の後ろ姿が 在った。 言葉を失う。 誰も居なかった空間に突如として人が現れたのだ。超常現象――少しは慣れ始めたの かも知れないが、それでも驚愕の一言に尽きる。 「貴方がキョンさん?変わった綽名よね」 少女は肩を揺らしながら、クスクスと薄気味悪い笑い声を上げる。 「あなたに聞きたい事があるの」 そう言って振り返った。 茜色の陽光を背に少女の面立ちが露となる。 気の強そうな双眸に整った目鼻立ちに、撫然とした態度。それは一応美の付いていい 少女であった。 毅然とした佇まいに思わず見惚れてしまいそうになり、慌ててかぶりを振った。 「お、お前は……一体……」 ようやっと、逃げ腰になりながらもそれだけを絞り出すと少女は、 「私?私は橘。橘京子」 微笑を口許に浮かべ、名を告げる。 「俺は……」 「自己紹介は不要よ。あなたの経歴、出生、全て調査済みです」 「……何だって?」 「しかし、良くまあ巧妙に存在を割り込ませたものですね。脱帽するわ」 嘆息を洩らしながら、教台へとゆっくりとした足取りで歩を進めながら、橘京子は饒 舌に喋り続ける。 「何を……、言っている」 「あなた、何処まで知ってるんですか?否、何処から 覚えて るんです?」 「言っている意味が解らないんだが」 「へえ、シラを切るつもりですか?」 何を言っているんだこの女は?まるで、自分が全てを知っている様に言う。それに、 存在を割り込ませる?訳が解らない。 少女が登場した時点で、超常現象に対する許容範囲は臨界点に突入している。 既に思考回路はショート寸前。現実と幻想の狭間にある事実を直視する事は出来る訳 が無い。 キョンは眉間に皺を寄せ、両の拳を握り絞め、萎縮した身体を奮い起たせ口火を切る。 「何が言いたいのか解らない。だが、俺は何も知らないのは事実だ!」 ふうん。と橘京子は冷笑を張り付かせ、教壇の前に立ち、丈の短いスカートを翻し振 り返る。 「あなたが忘れているなら、呼び醒ませてあげますよ。その身体に刻み困れた殺戮の鼓 動を。血塗られた運命を!」 嗜虐的な笑みを浮かべ、口汚く吐かれた言葉。 殺戮?血塗られた運命? ナンダソレハ。 そう呟いた、刹那。 橘恭子の周囲の空間が凝縮される様に歪み、ドンッ!と腹の底に響く破裂音と共に、 不可視の何かが机やら椅子を薙ぎ倒しながら眼前に迫る。 それが圧縮し解放された空気の壁だと理解した時には、身体中を強かに打ちつけ吹き 飛ばされる。 「かはッ!」 背中を壁に強かに打ち、激しい痛みと困難になった呼吸のせいか、涙が滲み出てくる。 (何だよ……、何々だよこれは!) 心の中で叫び、しかし直ぐに状況を理解する。 眼前に立つのは一人の少女のはず。だが、今目の前に居るのは何だ? 「あれ、もう終わりですか?張り合いないなぁ。もう少し楽しませて下さいよ」 嗜虐的な微笑を浮かべ、首の骨を鳴らし、ゆっくりと、一歩、一歩と近付いて来る。 殺られる。 己の本能が激しく警告音を、心拍数という形で表している。 逃げなくては。 朦朧とする意識の中、震えておぼつかない足取りで教室の出入口に向かう、が。引き 戸を幾ら引いてもビクともしない。 鍵は掛っていないはず。なら何故開かない! 「無駄ですよ」 「な……に……?」 「気付いていないんですか?私が此処を、異層空間にしたのが。ああ、あなたが理解出 来る様に言えば、ここは閉鎖空間です」 「……何だって?」 閉鎖空間――涼宮ハルヒが溜った鬱憤を晴らす為に造った空間ではなかったのか? 辺りに目線を巡らせる。確かに、教室内は茜色ではなく、琥珀色の不思議な空間だっ た。 壁や天井一面に発行した琥珀色の紋様が浮かび上がっている。 「此処は私達の神様の心の映し世。あなたは何処にも逃げられない。でも、安心して? 殺さない様にするから。でも、万が一死んだらごめんなさいね」 疑念と困惑が満ちる。 恐る恐る、振り返ると少しは離れた位置で、情けない男の転末を嘲笑う様に「ウフフ ……」と不気味な笑い声を洩らし、その手に持つ白銀の光を放つ細剣――白銀の光の粒 子が圧縮され、刺突剣の形状をしている物――を掲げ、右半身を前に、右足をすり足で 前に踏み出し、真っ直ぐにキョンの方向へと切っ先を向ける。 その流美な動作と同時に、踏み出した勢いで足元のタイルを穿ち、寸分の狂い無く突 き出された細剣が疾風の如く迫る。 これは、死んだか? そう、諦めかけたその時、心臓が強く脈を打った。 (……な、……なんだ?) 橘京子の動きがスローモーションに見えた。そこで人が窮地に陥った時、脳のリミッ ターが解除され、抑制されていた五感や身体能力が完全に解放されるという。 それを瞬間的に理解し、同時に唐突に己の死を理解する。 だが、こんな所で訳も分からずに死ぬ訳にはいかない。 気付いたら身体が勝手に動き、身体を右に流れる様に深く沈ませる、が、猛然と突き 出された細剣の切っ先が肩口の肉を抉り、血渋きと共に痛烈な痛みが傷から身体中に走 る。 「ぐっ!」 衝撃を殺し切れず、机や椅子を薙ぎ倒しながら床の上を猛然と転がる。 「う……ぐ……」 後頭部を強かに打ち付けたのか、視界が霞み揺れる。しかし、このまま床に伏せてい ては、ただ死を待つだけではないか。 それでいいのか? キョンは己に言い聞かせる。 「いい訳ないだろう……ッ!」 何も出来ないなら、出来ないなりに抗って見せるとも。 「へえ、今の突きを躱せる何てね。大した反射神経と動体視力ね。でも、次は外さない」 橘京子は再び細剣を構え、くるりと手首を回し、殺気の篭った双眸を見開き、腰を深 く落とした。 それだけで、床に伏せた身体は地に根を張った様にビクともせず、完全に萎縮してし まっていた。 次は躱せない。 脳裏を絶望が霞める。 「こんなに呆気ないんじゃ、宛ては外れたって事ですかね?まあ、いいです。じゃあ、 死んで下さい」 再び、踏み出した足がタイルを穿ち、驚異的な速度で迫り来る細剣を、視界で捉える 事は出来たがそれまでの事。 終わったな。 呆気なかった己の人生を振り返ろうとしたが、明瞭な過去の記憶は浮かび上がらず、 ただ一人の少女の笑顔が浮かんだ。 朝倉涼子。 静かに瞼を閉じようとした、刹那。 蒼黒の髪を翻し、一人の少女が二人の間に飛込んだ。 はたして、少女は見事細剣の刀身を片手で受け止めたが、殺され無かった勢いが少女 の掌の肉を削り、心の臓を貫ぬかんとする寸前で、ピタリと細剣は止まった。 「朝……倉……?」 「ごめんね、キョン君。遅くなっちゃって……。でも、もう大丈夫だから」 その姿は、まるで天使が舞い降りたかの様にキョンの瞳に映った。 ──朝倉涼子の軌跡 絶体絶命 END──
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4128.html
あたしは焼却炉にゴミ袋を投げ込んだ。 今は放課後。そしてあたしは掃除当番。面倒だけど仕方ないわ。 サボってもいいけど、それを口実にSOS団の活動を妨害されたらつまらない。 「ん?」 昇降口に戻って上履きを取り出すと紙が落ちた。 なにかしら。手紙? 「えーっと『北口駅前の喫茶店で待ってる』」 シンプルな白の便箋にはそう書かれていた。 ちょっと待って、これってまさか……ねぇ。 「どうかしたの?」 「うひゃう!」 慌てて振り向く。声の主は朝倉涼子だった。 「ったく、驚かさないでよ」 「ふふ、ごめんなさい」 朝倉が鈴を転がしたような声で笑う。 今更だけど、名前の通りさわやかな娘よね。 「……って、いつまで笑ってるのよ」 「ふふふ、ごめんなさい。でも涼宮さんがあんなにかわいい悲鳴を上げるとは思わなかったから」 「う……」 意味もなく恥ずかしくなる。 ……あの角度ならこれは見られてないわよね、たぶん。 あたしは咳払いをして呼吸を整えた。 「ちょうどいいわ。あたし急用ができたから帰るってみんなに言っておいてくれる?」 「急用?」 「頼んだわよー」 朝倉の返事を待たずにあたしは教室へ戻った。 「ふぅ」 カップを戻す。 注文したコーヒーの残りは半分以下。どうも早く来すぎたみたいね。 「キョンの奴……わざわざここに呼び出すなんて、一体何の用だろ」 つまらない話だったら即罰ゲームね! さて何にしようか……ん? バカそうな客の顔を見てピンと思いつく。 そうね、また新しい映画でも撮ろうかしら。 ちょっと時期的に早いけど、準備期間は多いにこしたことはないし。 キョンには空でも飛んでもらおうかしら。あいつの頭って軽いからそういうの得意そうよね。 あ、でもそれ楽しそう。あたしがやりたい。 ……んー、そうね。紐なしバンジー。これなら罰ゲームになるわ。 あー、でもそれも楽しそうよね。 と、あたしはあれこれ考えながらまたカップを手に取る。 「ふぅ」 コーヒーの残りは1/3。 キョンside 俺はノックをして部室のドアをやる気なく開ける。 ……あれ?なんだ? 「いらっしゃいキョン君」 はっと俺は我にかえる。部室には見慣れない奴がいた。 「朝倉? めずらしいな」 「涼宮さんの代理なの」 「ハルヒの?」 あいつが来ないとは。まさか風邪でもひいたか? いや、でも六限目はいつも通りだったよな。 「急用らしいですよ。というわけで今日はみなさんでモノポリーでもやりましょうか」 「やらん」 俺は短く答えていつもの席に腰掛ける。 古泉はうさんくさい笑みを浮かべて、テキパキとボードゲームの用意をしていく。 まったく、こいつといい俺の周りの人間はどうして人の話を聞こうとしないのか。 「キョン君、お茶どうぞ」 「ありがとうございます」 かわいらしい俺の精神安定剤兼女神様兼唯一の常識人は、今日もせっせとメイドの働きをしていた。 うむ、相変わらず朝比奈さんの茶はうまい。 「では始めましょうか」 ゲームの用意ができたらしい。気のせいか古泉の笑みがパワーアップしたように見える。 朝比奈さんは、待ってくださいーと慌てて席に着いた。 いつの間にか長門もスタンバッている。 「長門もやるのか?」 コクリと頷く。まあ止める理由はない。 「ねぇキョン君」 いつの間にか、朝倉は俺の左隣に移動していた。 団長机の前がカラになっている。 「私よくわからないからいっしょにやってくれる?」 「ああ、いいぞ」 「ふふっ、ありがとう」 朝倉が笑う。名前の通り爽やかな奴だった。 ハルヒside 放課後。 あたしはゴミ捨てを終えた。 昨日よりさらに乱暴にゴミ袋を焼却炉に突っ込んでやった。 今日のあたしは一日中ふつふつと怒りを溜め続けていた。 「キョンの奴、授業中も、昼休みもいつもと同じ様子だったわ…… 昨日あれだけ人を待たせておいて何考えてるのかしら。許せないわ……ん?」 下駄箱を開けて上履きを取り出すと紙が落ちた。 「『昨日と同じ場所で待ってる』って……人をおちょくるにも大概にしなさいよ!」 手紙を地面に投げ捨てて踏み潰……しはしなかった。 まぁ、一応行こうかしら。弁解くらいは聞かなくちゃね。 手紙を拾い上げ、ぱっぱと払う。 団長たるもの、広い心を持たねばならない。 キョンside ノックをしてドアを開ける。 ……はて? なんなんだろうこの違和感は? 「ん? 朝倉、今日もいるのか」 部室を見回すと、俺以外のメンバーは揃っていた。 ただし、ハルヒと朝倉が入れ替わって、だが。 「ふふふ。お邪魔してます」 「涼宮さん、今日も急用らしいですよ」 古泉がトランプを念入りに切っている。 ゲームに弱い割りに、こういった動作はサマになっていた。 「へぇ。ま、あいつにもいろいろあるのかね」 俺は席に着くと同時に、朝比奈さんのお茶をいただく。 今日も相変わらずお美しい。そして茶はうまい。 「ではみなさん、今日は大富豪でもしましょうか」 「はいよ」 昨日は否定。今日は肯定。 明日はどっちの返事にするかなと思いながら、俺は古泉の飛ばすカードをぼーっと見ていた。 ……って五人分? 視線を上げると、朝比奈さんと長門、そして俺の左に朝倉。 長門が二日連続参加とは……と、待てよ。 「朝倉、ルールわかるか?」 モノポリーを知らなかった奴だ。大富豪がわからん可能性も…… 「ふふ、心配してくれてありがとう。でも大丈夫。それに私、結構強いわよ」 朝倉が不敵に笑う。 まぁ、古泉が配ってる時点で気づくべきだ。そういった不手際をするとは思えんしな。 「なら今日は俺がお前の後ろでサポートでもするかな」 「ダメ。昨日の恩を仇で返すわ」 「お前な……」 言い返そうとしたが、朝倉の顔が妙に嬉しそうで、 出掛かった言葉をなぜか俺は引っ込めてしまった。 ちなみに、結果は朝倉の宣言通り妨害をされまくり、 俺は古泉にすら後れを取るハメになった。 昨日の協力プレイはどうやら夢だったらしい。 ハルヒside 翌朝。 登校中のバカの頭にあたしの鞄がクリティカルヒットした。 「ぐぉ!?」 「ちょっとキョン! 昨日一昨日と一体どこ行ってたのよ!!」 「いててて……どこって、部室行って帰ったんだが」 「はぁ!? ちょっと来なさい!」 いつかのようにネクタイを引っ張って、人ごみ離れた脇道に連れて行く。 堪忍袋の中では核融合を起こしていた。 「おいハルヒ。離せ。苦しい」 何も言わずに手を離す。 さて、この超巨大バカはどんな言い訳をするのかしら。 「あんたねぇ、自分の行動には責任持ちなさいよ」 「何のことだ?」 「とぼけないで。この手紙……」 「ん?」 「………」 ポケットに突っ込んだまま、あたしの右手が止まる。 ちょっと待って。ちょっと待ってー。 確かあの何の飾り気もない便箋には…… 『北口駅前の喫茶店で待ってる』 『昨日と同じ場所で待ってる』 うん。そうね。そうだわ。それだけ。 ……差出人なんてどこにも書かれていないわ。 そして様子を見る限り、 「どうした?」 うん、絶対に違うわね。 「おーいハルヒ」 「……なんでもない」 「はぁ? あ、おいハルヒ!」 外部の音を完全に遮断してダッシュする。 あぁ、今なら東京タワーから飛び降りてもいいわ。 キョンside 「……馴染んできたな」 放課後、部室に入ると今日も朝倉はいた。 「ふふふ、こんにちは」 「涼宮さんはまた急用みたいです。一体どうしたんでしょうね」 ふーん、と適当に返事をして席に着く。 と、ここで俺はやっと違和感に気づいた。そうだ、部屋が広いんだ。 「あぅ……キョン君」 朝比奈さんが小型犬よろしく俺を見上げる。 ああ、この人のためならどんな願いでも聞けるね俺は。 「ごめんなさい。茶葉を切らしてしまったみたいです」 なんだ、そんなことですか。とは口に出さずに俺は席を立つ。 「別に構いませんよ。なんなら俺がひとっ走り行って買ってきますよ」 「そ、そんな!悪いです!」 「いいですって。じゃ行ってきますね」 朝比奈さんが後ろで何か言っていたが、聞こえない振りをした。 キョロキョロと周りの風景を確認しながら歩く。 「えーっと、前に朝比奈さんと行った店って向こうの通りだったよな。 茶葉はよくわからんが……まぁ店の人に適当に選んでもらえばいいか」 「前に朝比奈さんと行ったってデート?」 「そのような違うような……って朝倉!?」 こいつ、足音全くしなかったぞ。 まあ長門の同類だしな。なんでもありか。 「へー。意外とスミに置けないね」 朝倉はニコニコ笑う。 イヤミには見えない。顔のいい奴は得だな。 「お前、部室で待ってればいいだろ」 「まぁまぁ」 なおも笑う。帰る気はなさそうだ。 俺は嘆息して、仕方ないかと気持ちを切り替える。 別にあの店が俺と朝比奈さんだけが知ってる場所だったのになぁと、 子供じみたことを思ったわけではない。たぶん。 無事茶葉を買い終えて学校へと続く道を歩いている途中、 朝倉がぽつりと言った。 「ねぇ、どうして学校出てきたの?」 「お前はこれが見えんのか」 茶葉の入った袋をぺしぺし叩く。 まっすぐ前を見て歩いていた朝倉が、俺に視線を合わせる。 「そんなの口実でしょ」 朝倉が立ち止まる。 「本当は涼宮さんの家に行って、様子見に行きたかったんじゃないの?」 朝倉の瞳には、はっきりと俺の姿が映っていた。 俺は心の内がすべて覗かれているような気がして、 できるだけ自然に視線をはずしてから歩き出した。 黙秘権は憲法によって保証されているのだ。 「ふふふ。わかりやすい」 朝倉はちゃんと俺の後をついてきた。 そしていたずら好きな子どものような顔をして言った。 「ねぇ。種明かししてあげよっか」 「なにがだ?」 「今朝、涼宮さんに手紙がどうのって言われたでしょ」 そういえばそんなこと言っていたような。 「昨日一昨日とね、谷口君が彼女の下駄箱に入れてるの見たの」 「え、それって……」 いや、でも谷口が? ハルヒに? いやいや、それはないだろう。 「彼、手紙を入れる場所を勘違いしてたんじゃないかしら。 隣の下駄箱の子。確か以前彼に遊びに誘われてたって言ってたし」 ……すばらしいポカミスだが、あいつならやりかねんな。 「それに昨日も一昨日も二人して駅前の喫茶店にいたわ」 「教えてやれよ」 「い・や」 100%否定の言葉を満面の笑みで言う。 さすが、笑顔で俺を殺そうとしただけのことはある。 「それに嘘だしね」 「は?」 「いくら彼の注意力がなくても、二日も続けて間違えると思う?」 谷口ならやりかねんと思ったが朝倉の笑顔からすると違うようだ。 どうやらこいつは、つまらないことをしたらしい。 「お前、優等生の割りに何気にひどいよな」 「本当ならもう少しいろいろして、彼女の様子を見ようと思ったんだけどね」 「……何をする気だ?」 「そんなに警戒しないで。ただのかわいい嫌がらせよ」 嫌がらせはかわいくないだろう。 それにどうせとばっちりで迷惑するのは俺だ。 「安心して。もうする気はないから」 朝倉はくすっと笑って、歩く速度を上げる。 俺は外人よろしく一度肩をすくめてから朝倉を追いかけた。 次の日の放課後、ハルヒは何事もなかったかのように部室にいた。 朝比奈さんも長門も古泉もいた。 朝倉はいなかった。帰ったのだろう、それがあいつがこの学校に戻ってきてからの日常だ。 部室の隅は相変わらずガラクタ置き場になっていて、まともな空間を侵食していた。 団長席でハルヒは得意気にくだらん思い付きを披露している。 「ん?」 ハルヒに気づかれない程度に辺りを見回す。 ふと、別の声が聞こえた気がしたのだ。 ほんの一言。 ……次の機会はいつかな、と。 ―終―
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5113.html
読む前にこのページにも目を通していただけると嬉しいです。 「…説明を求める」 気がついたら教室が元に戻ってた。 夕焼けの紅しか入ってこない教室にお玉を持った女子と男子が1人ずつ。 …何だよこの状況。 「んー…簡単に話すと、長門さんにされたことを味あわせてやりたいのよ」 「されたことって…あのカレーを食べさせるのか?」 「そうそう」 「あの紫色のカレーを?」 「あ、カレー風呂に入れるのもいいかもしれない!」 「…長門に?」 「長門さんに」 「ちなみにそのお玉は?」 「え?カレー作るときに使わない?」 「…止めとけ。返り討ちにあうぞ」 というかガチで戦って負けてたじゃねぇか。 「あれは1対1だったからよ!今回は勝ち目無いのがわかってるからあなたに頼んでるんじゃない!」 「落ち着け。仮にお前の手助けをしたとしてだ。俺なんか何の足しにもならないと思うぞ?」 「そんなこと無いわ。長門さんだったらキョンくんの言うことを素直に聞くと思うけど?」 …一応俺も長門に脅されてカレー風呂を体験したんだが… 「あれくらいならまだ軽い方よ!私なんてインドに飛ばされたのよ!?」 …へ? 「あなたを殺そうとしたあの日!私は消されてなんかいなかった!気がついたら長門さんの家にいたの!」 …何だって? 「…あれは忘れもしない…あなたを殺そうとした前日のこと…」 うぅ…もう嫌… 1日8食のカレー生活なんて耐えられない… 生み出されてから3年間、私は長門さんの助手として過ごしてきた。 そこのあたりの詳しい描写はひとつ前の作品を見てもらえると嬉しいわ。 カレー生活に嫌気がさして逃げ出したこともあった。 辿り着いた先は屋台のおでん屋さん。 私は心を踊らせてちくわと大根を注文したわ。 …だけど出てきたおでんはカレーの具になっていた… たっぷり30秒考えて食べてみた。 おでんの出汁でカレールーの油が分離して大変なことになっていた。 泣きそうになりながら勘定をすませ、屋台を出ようとすると真後ろに長門さんが立っていた。 …あのときは素で泣いたわ。 でもまだあれだけなら我慢できた。 だけどなんでカマドウマをすり潰して入れたカレーを食べなきゃいけないの!? …怒ったところで何も変わらない。 最近じゃ思念体が「観測対象がアクション起こさないから何とかしてくれ」なんて言ってくるし… 「はぁ…」 ため息が出てくる。 所詮私はバックアップなんだから長門さんに頼んでよ。 今日は長門さんの家に泊まり込みでカレーの研究。 夜も遅いので一旦休憩をとることになった。 私はさっき食べたカレーのせいで汗が大量にでてしまったのでお風呂に入りたかった。 っていうか一口食べただけで下着がびしょ濡れにほど汗が出るってどんだけ辛いのよ。 「…リラックスできる湯の元を入れておいた」 確か長門さんそう言ってたっけ… 湯船を見ると茶色かった。 珍しい色ね。 一通り体を洗ってから湯船に浸かる。 …首元までたっぷり入ってから気がついた。 「…カレーの臭いがする?」 というかこのお湯もヌルヌルする気がする。 咄嗟に長門さんへと通信を試みる。 ―ちょっと長門さん!?あなたこのお風呂に何かした!? ―…カレー風呂。 ―…え? ―…だからカレー風呂。 そこで通信は途絶えた。 さっさと上がって作業を開始しろと言うことらしい。 …何で私がこんな目に? …何で私は産まれたの? しばし唖然としているとまた通信が入った…思念体? 『素で退屈なので何とかアクションを起こせ』 ……………ふふ。 …あはははははははは!! そうなの!そんなに何とかしてほしいの!? そうだ、キョンくん殺してみよう。 当日、盛大に返り討ちにあった。 …気がつくと私は横になっていた。 「長門さん…ごめんなさい…」 「…いい。あなたが極度な精神不安定状態にあったのは私のせい」 「ふふっ…いいわよ…でもカマドウマをカレーに入れるのはもう勘弁してね?」 「…………」 「目 を そ ら さ な い で」 「…わかった」 「よし…ところで私は消去されたんじゃなかったの?」 「…あなたの今回の暴走の原因は私との生活によるノイローゼによるもの…今回の事件の原因はあなたではない。情報統合思念体はそう判断した」 「そっか…でも私はこのあとどうすればいいの?」 「…あなたはカナダに転校したことになった」 「え?じゃあ学校に行かなくてもいいの?」 「…そうなる。さらにあなたが望むならしばらくカナダを旅行させる事もできる」 「本当に!?長門さんそんな事できるの!?」 「…あなたの平面座標を変更する。準備に時間がかかるから行きたいのなら荷造りを」 長門さん凄いわ… 「…ただ…なるべく早く帰ってきてほしい」 荷造りしていた手が止まってしまった。 「あなたがいないと…寂しくなる」 …そう。 「わかったわ。一通り回ったらすぐ帰ってくる。お土産は何がいいかしら?」 「…カレー」 「…あったらね…はい、準備完了よ」 「…そこに座って目を閉じて」 言われた通りに座る。 「…一つ注意してほしい。この国からでたら思念体の監視外にでてしまい、通信以外の一切の能力を失ってしまう」 「え!?大丈夫なのそれ?」 「…大丈夫」 「でも変なトラブルに巻き込まれたりしたら…」 「…私がさせない」 そう言った瞬間体が軽くなる。 どうやら転送を始めたらしい。 「…右のポケットにホテルの宿泊チケットが入っている。向こうに着いたら確認して」 「わかったわ」 色んな空間のズレを感じる。 …着いたかしら? …タタタタタタ… …何の音かしら…銃声? 「隊長!も、もう弾がありません!」 「口で糞する前と後にサーを付けろと言ったはずだ!!」ターン! 「グハッ!」 「ちっ、退くぞ!白煙弾を投げろ!!」 目を開けると戦場にいた。 ―ち、ちょっと長門さん!どういうこと!? ―…迂闊。座標を間違えた。あなたが今いるところはインド北部のカシミール地方。今そこは領土争いの真っ最中。逃げて。 ―いや、長門さんの力で逃がしてよ? ―…アーアー… ―何も聞こえなーい…じゃないわよ! ―…安心して。あなたのノリツッコミはとても優秀。 ―…刺すわよ? ―…とりあえずそのまま逃げて、本場のカレーについて研究してきてほしい。 ―え!?ち、ちょっと!? そのまま一方的に通信を切られてしまった。 「…というわけなのよ…」 「…よく生きてたな…」 「必死に逃げたわ…たまたまサバイバルナイフだけ持ってたから鳥をとって食べたりして…」 「泊まるところはどうしたんだ?」 「長門さんがくれたチケット…インドのホテルのものだったの…」 「…確信犯か…」 「でも数日野宿したから服はボロボロで髪はボサボサ…ホテルに入れてもらえなかったわ…」 「………」 「何とかホテルのチケットを売って食費にしたけど…どこに行っても出てくるのはカレーばっかり…」 「…大変だったんだな…」 「そう思うなら手伝って!!」 「いや…しかしなぁ…」 実際長門には沢山世話になっているし、カレーの件以外で何かされたわけでも無いのであまり賛成したくはないのだが… 「…ダメかな?」 AAAランクの美女に上目遣いでお願いされて断る度胸も無いわけで… 「…あまり酷い内容じゃなかったらな?」 「よかった!ありがとう!!」 そう言って安心した顔つきになる朝倉。 「とりあえず明日カレーの材料持ってくるから、計画は明日話すわ!」 「あぁ、わかった…さて、部室に行くか…というかさ」 「ん?どうしたの?」 先を歩く朝倉が振り返る。 「お前と長門って…仲良いんだな」 「そうかしら」 とびきりの笑顔で朝倉は笑った。 「というわけで紹介するわ!本日からSOS団に入団することになった朝倉涼子さんよ!!」 部室内にハルヒの声が響きわたる。 古泉は朝倉と目をあわせようとしない…というか震えてないか? …まぁ結構なでかさのトラウマを植え付けられてたしな。 朝比奈さんは突然の入団希望者に驚きを隠せないようだがやがてしずしずとお茶を汲み始めた。 長門は…相変わらず指定席で分厚い本を読んでいる。 ハルヒ?言うまでもないだろ。 「ちょっとキョン!ぼーっとしてないで椅子くらい出しなさい!」 団員が増えるのが相当嬉しいのだろう。 口では厳しいこと言ってるが、目をキラキラさせている。 …きっと今のこいつの頭の中には「退屈」の文字なんてないんだろうな。 「はい、朝倉さん。お茶です」 「ありがとうございます。朝比奈先輩」 「せ、先輩なんて堅苦しいから普通に読んでください…」 「わかりました。朝比奈さん」 …しっかし部員一人増えるだけでこうも空気が変わるものなんだな。 朝倉は始めに本を読んでいる長門を見て微笑んでいる…と思いきやハルヒと朝比奈さんと談笑を開始。 最終的には俺と古泉とかわりばんこでボードゲームを始めたりと…朝倉って結構フリーダムだったんだな。 委員長というかむしろ殺人鬼というイメージが強かっただけにやっぱり意外だ。 ってか何で俺はこいつに対してこんなにも冷静でいられるのだろうか? …やっぱりハルヒ達と関わり初めてそういうものに免疫ができてしまったんだろうな。 …パタン。 そのまま長門の本を閉じる音で本日の部活終了。 そのまま全員で帰宅。 ちなみに朝倉はまたあのマンションに住むそうだ。 以前のような恐ろしさは無いが、長門とカレーの研究について進めているらしい。 …というか疲れた… 今日一日で環境が大きく変わった気がする… …そういや…明日は朝倉と何かやらかすんだっけか? …まぁいい。 とりあえず妹にムーンサルトは二度とするなと言い聞かせて、力尽きて寝てしまった。 つづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1483.html
朝っぱらから嫌な予感がぎゅんぎゅんしていた。 良い予感なんてのは当たらないくせに悪い予感なんてのはよくよく当たるもんで、それは当たって欲しくないものほどよく当たるってことが今までの俺の乏しい人生経験が結論付けており、結論付けられているからこそ対処のしようもあるというものだが対処しようってときほど対処方法が見当たらないのもよくあることで、目にプレアデス星団みたいな輝きを宿したハルヒが何かを言い出したときくらいにどうしようもない状況に俺は置かれていた。 『放課後誰もいなくなったら、二年*組の教室に来て』 俺が朝学校にやってきて自分の下駄箱を開けると上履きの上に乗っていた紙切れにはそう書いてあった。 その丸みを帯びた文字を見た瞬間、記憶の片隅にあった戦慄が蘇る。 オレンジ色の教室。長い髪の女。ナイフ。そして閉ざされた空間。 その文字はどう考えても消えたはずの元クラスメイト、朝倉涼子のもので―― 奇しくも今日は去年のあの日と同じ日付だった。 妙な感覚だった。壮絶な危機感に襲われながらも俺は何故か同時に義務感のようなものに苛まれていた。 1時間目の休み時間、当然の策として長門のクラスに長門の姿を探しに行った俺は今日は休みだという話を聞いて嫌な予感を倍増させ、その後何度か長門の家に電話したにも関わらず長門が出なかったことにますます戦慄し、もはや相談できる相手が誰もいないということに気付いて愕然とした。 ハルヒに話したら何を言われるか分からんし朝比奈さんに言っても仕方がない。古泉に言おうかとも思ったがあのニヤケ顔を思い出してすぐさまその案は却下した。もちろん喜緑さんにも聞いておこうかとも思ったが彼女も休みだということを知って俺は地獄から這い上がろうとして蜘蛛の糸を切られたカンダタのような気分になった。 というかこんなあからさまな罠は放っとけばいいのだがそういうわけにもいかなかった。 何故だか分からんが、行かなければいけないような気がしたのだ。 そこで何が起きようとも甘んじて受け入れねばならないような、そんな気分だった。 心臓がありえない速度で脈打っている。長門がいなかったためにハルヒは早々にSOS団の活動を切り上げ、解放された俺は 適当に時間を潰し自分のクラスの教室の戸の前に立っていた。 意を決して戸を開いた俺の耳に流麗な、だが俺にとっては予想通りでかつ絶望的な声が届けられた。 「遅いよ」 朝倉涼子が、そこにいた。 「……やっぱりお前か」 「分かってたんだ。入ったら?」 入るわけがねえだろう。話が早すぎるぜ。最初からナイフを握ってやがる。 「何故お前がここにいる? 急進派の仕業か。長門と喜緑さんが学校に来なかったのもそのせいだな?」 俺は朝倉を睨み付けたまま、教室には足を踏み入れずに言った。 「話が早いわね。そのとおり。悪いけど、あなたには死んでもらうわ」 くそ。やっぱり来なきゃよかった。何で俺はこんな飛んで火にいる夏の虫そのまんまな行動をとっちまったんだ。 「あ?」 突然背中に軽い衝撃を感じた。と同時、俺はまんまと教室の中に足を踏み入れてしまい教室はあっさりとコンクリートの壁で覆い尽くされた。 「くっ……」 朝倉がまるで悪意を感じさせない笑みのまま立っている。何をされたのかは分からんが、今のは確実にこいつの仕業だ。 「正直言ってあまり時間がないのよ。上は長門さんと喜緑さんを押さえ込むので手一杯だし、それに……」 そこまで言って朝倉は口を閉ざした。一瞬、何かを案じるように眉をひそめた後笑みを取り戻し、 「それじゃあ、死んで!」 ナイフを構えると地面を蹴って一気に突進してきた。 その時だった。 天井をぶち破るような音とともに瓦礫の山が降って――何だ、このどこかで見たような光景は。 「――ちょっと、早すぎるんじゃない?」 「あら、わたしはちょっと遅すぎたと思ったんだけど」 全く同じ音質を持った声が言葉を交わす。 信じがたい光景だった。 俺の目の前で朝倉の凶刃を抑えていた北高のセーラー服を着た女―― 「ごめんね、遅れちゃって」 長い髪をたなびかせながら俺にそう詫びたのは紛れもなく、朝倉涼子だった。 「情報封鎖が甘すぎるのよ。長門さんに指摘されるのも当然だわ」 「よく出てこられたわね」 一方がナイフを突き出しもう一方がその刃を素手で抑えるという体勢のまま動かない二人の朝倉は何故か噛み合っていないような会話を繰り返す。 「そんなに難しいことじゃないわよ。だって“わたし”が望んだことだもの」 「“あなた”も、長門さんのようになりたいの?」 「ええ、もちろん。“あなた”は違うの? そうでしょうね。“あなた”はもう“わたし”じゃないもの」 もうまったくワケが解らない。解る奴がいたらここに来い。そして俺に説明しろ。 「せっかくここに来るように仕向けたのに……あなたね。彼の足を止めておいたのは」 「足を止めさせることしかできなかったけどね。でも、間に合ってよかったわ」 いったい何が起きてるってんだ。二人も朝倉がいて、しかも互いにしか分からんような会話をしてる。いや、自分と会話してるんだから自分しか分からないのは当然か? ああもう、そんなことはどうでもいい。いったい何なんだこの状況は。 「でもわざわざ教室に呼ばなくたってよかったと思わない? 殺すなら通り魔だって何だっていいじゃない」 「それは……そう。そういうことだったの」 ナイフを抑えている方の朝倉が余裕そうな笑みを浮かべているのに対して、ナイフを突き出している方の朝倉は忌々しそうに表情を歪めた。 「何となく分かっていたけどね。気に入らないわ」 「別にいいわよ。わたしもあなたのことは好きじゃないもの」 どうやら俺のことを守ってくれているらしい方の朝倉の声も次第に刺々しいものになっていく。何の喧嘩なんだよ。 「やっぱりあなたとは分かり合えそうもないわ」 「それでいいんじゃない? わたしだって分かり合いたくないもの」 ナイフが発光を始める。あの時のように。同時にナイフを突き立てていた方の朝倉――ええい、面倒くさい。もう朝倉と朝倉(偽)でいいな。気分的に俺を襲ってきた方の朝倉を(偽)ということにしておこう――はナイフを手放して大きく飛び上がり後退した。 音も立てずにふわりと着地すると、そこでやっと朝倉(偽)は笑みを取り戻し、 「でも、本当に勝てると思ってるの? 実権はわたしが握っているのよ。分かるでしょう? この空間はわたしの情報制御下にあるのよ」 「ええ、そうね。でも言ったでしょ? わたしはあなただって。それはあなたも分かってるはずだけど」 だが朝倉は笑みを崩さない。取り戻したはずの笑みを崩したのは朝倉(偽)の方だった。 「!! まさか……」 「残念だったわね。一つ一つのプログラムが甘いから、こういうことになるのよ」 朝倉(偽)の動きが止まる。まるで足を地面に固定されたようだった。 「さて……あいつの動きは止めたし、ちゃんと説明しないとね」 朝倉が俺の方を振り向いた。その顔に浮かんでいたのは安心させるような笑みで、俺はようやく緊張を解いた。 「どういう……ことだ」 「そうねえ、まあだいたいはあなたの考えているとおりなんだけど……」 お前が二人いるなんて考えは頭のどっこにもなかったぜ。 「とりあえずそれについて説明しないとね」 朝倉はもう一人の自分の方に振り返って、 「まず言っておかなきゃならないのは、あれはわたしとは別の存在なんかじゃなく、わたしそのものだってこと」 話の流れから何となくそうかもしれないとは思ったが。……本気か? 「本気よ。わたしがあいつから分離した……っていうのが一番正しいかしらね」 朝倉(偽)は憮然とした面持ちのまま俺たちを見据えている。 「言ってしまえばあいつは統合思念体の急進派、というかその意識そのものと言ってもいいかもね。 そしてわたしは、わたし自身の自意識が生み出した、もう一人のわたし。わたしの方がコピーだっていうのは気に食わないけど」 (偽)をつける方を間違ってたか? だが今更表記を変える気にはならんな。こいつを偽者だというのは何だか忍びない気がする。 「あなたには謝っておかなくちゃ。……ごめんなさい。二度もあなたを殺そうとして」 本当にすまなそうに言う朝倉に俺は意表を突かれた。こいつが俺に対して罪悪感を感じているとは。 いや、それよりも―― 「長門が世界を改変したとき……あれはやっぱりお前だったのか。長門の、バックアップとしての」 「ええ、そう。だいぶ情報操作は受けていたけど。長門さんが再構成したんでしょうね。多分、無意識のうちに」 やはりそうか。あれは、あの朝倉は長門が望んだものだったのか。 と、朝倉は一つ深呼吸して、 「……余裕に見えるかもしれないけど、実はけっこう裏では情報戦で消耗してるのよ。一気に話したいことだけ話すけど、いい?」 「……分かった」 「一度目にあなたを殺そうとしたときね、あれ、急進派に半分操られてたのよ。……言い訳に聞こえるかもしれないけど」 何となくそんなことだろうと思ってたさ。だが、半分ってのは何なんだ。 「わざわざわたしがあんな回りくどいやり方をしたこと、気にならない?」 言われてみれば、妙だ。さっきこいつらもそんなことを言っていた。 「急進派みたいな直接的な行動を好むような意識が、あんな非効率的なことをするわけがないでしょう? あれはわたしがやったの」 朝倉が朝倉(偽)の方を見たのに倣うと、朝倉(偽)は溜息を一つついて、 「まさかあそこまで抑えられるとは思ってなかったわよ。そのせいで殺し損ねちゃった」 「さぞかし残念だったでしょうね。わたしもあそこまでできるとは思ってなかったわ」 朝倉は再び俺の方へ向き直る。 「あなた、あのとき長門さんのことを信用してなかったでしょう?」 「ああ……正直なところはな」 「だから利用したのよ。“わたし”の行動を。わたしがあなたを襲い長門さんに守らせることであなたに長門さんを信用させるために」 不意に節分のときの、鬼の面をつけた長門の姿がフラッシュバックする。 改変された3日間。復活した朝倉。泣いた赤鬼……。 やっぱり、長門だって望んじゃいなかったんだ。仲間を消すなんてことは。 「でも、これは賭けだった。“わたし”にできたのは、あの状況を作り出すことだけだったから。上手くいくかどうかは長門さん次第だったの。あのときの“わたし”は本気だったから。でも、長門さんは上手くやってくれたわ。ちゃんとあなたを守り切った」 長門の話をしていて思い出した。本来なら真っ先に聞いておかなきゃならなかったことだ。 「朝倉、長門……と、喜緑さんは無事なのか?」 朝倉は真剣な表情を微笑に変えて、 「大丈夫よ。大事にはなっていないと思うわ。あくまでも行動を制限されていただけだから。長門さんと喜緑さんがそう簡単にやられると思う?」 「……そうか」 「でも、よかった。ちゃんと長門さんのことを心配してくれてたみたいで」 当たり前だ。あいつの身に何かあったら俺もハルヒも黙っちゃいねえ。 「一つ聞きたいんだけど、それ、長門さんに恩を感じてるからってだけじゃないよね?」 「あいつに恩を感じてるからだとか、ちょっとした同情がないかと言えば嘘になるけどな。そんな卑怯な理由だけであいつを庇ったりはしねえよ。 あいつは俺たちの大事な仲間だからな」 「ふうん」 朝倉は何故か少しだけ不満そうな表情を浮かべていたが、それ以上は追求してこなかった。 「……それで、二度目。長門さんが世界を改変しちゃったときのことだけど。あれにもちゃんと理由があるの」 「ああ」 「急進派のインターフェースである以上、わたしの任務は涼宮さんの変化を促すこと。それはあなたを殺すという行動に集約されていたのよ。そしてあの世界改変のとき、わたしは長門さんでも抑えることのできなかったわたしのインターフェースとしての行動原理によって暴走した」 ……それが、俺を殺そうとした理由か。 「そう……信じてくれるの?」 「信じるさ」 俺は長門の表情すら読める男だぜ。お前くらい表情のはっきりしてる奴が嘘を言ってるかどうかくらい分かる。 「……ありがとね、キョンくん」 思わず朝倉をマジマジと見てしまった。こいつも俺をあだ名で呼ぶのか。俺をあだ名で呼ぶのは俺に心を開いた指標か何かなのかとか、そんなどうでもいいことを考えちまった。 「でも……」 朝倉は朝倉(偽)をきっと見据えた。 「それだけじゃないわ。あいつがあなたを殺そうとした理由」 朝倉(偽)は嫌らしい笑みを浮かべて、 「どういうことかしら?」 「本当はあなた、観測対象のことなんてどうでもよかったんでしょう? そんなに長門さんが羨ましかったの?」 「あら、あなただってそれは同じじゃない? “あなた”は“わたし”なんでしょう?」 「確かにそうだけど……わたしはそんなこと望んでないわ」 「どうかしらね」 そこまで言って朝倉(偽)はふっと鼻で笑った。 「朝倉、どういうことだ?」 「さっき言ったでしょう? あれは急進派の意識に限りなく近いの。……急進派は主流派に対して憤りを感じていたのよ。変化を待つばかりでは、何も変わらない。だからわたしを操ってあなたを殺そうとした。でも、“わたし”も急進派と同じように、主流派のインターフェースである長門さんに……そうね、嫉妬とでも言ったらいいのかしら。とにかくそういうものを感じていたのよ。涼宮さんと彼女にとっての鍵であるあなたに選ばれた、長門さんにね。だから、“わたし”はあなたを殺すことで自分の欲求を満たそうとした」 二人の朝倉の視線が再びぶつかる。 「あなたが望んでいたのは変化でも、任務の達成でもない。長門さんが絶望する姿よ。違う?」 朝倉(偽)は口元を更に歪ませて、 「ばれちゃった?」 「そんなにバックアップって役割が嫌だった?」 「ええ、窮屈な立場だったわ。観測対象の変化を促したいのに、自分一人では何の行動も起こせないんだもの。長門さんは自分から行動を起こそうとしないし」 「ふざけないでよ」 朝倉の眼光が更に鋭くなる。が、朝倉(偽)は笑みを崩さずに、 「ふざけてるのはあなたじゃない。いったい何に毒されればそんなふうになれるの? 長門さん? それとも彼?」 「黙りなさい」 朝倉が右腕を伸ばし手を広げると、光の粒子が集まり朝倉(偽)のもと同じナイフが現れた。 「もう終わりにするわ。時間もあまり残されていないし。統合思念体によろしく言っておいてくれる?」 朝倉はナイフを朝倉(偽)へと向ける。だが朝倉(偽)の笑みは消えない。 「……ねえ、わたしが何の対策もしていなかったと思う?」 「何のこと?」 「あのときの長門さんと同じ。まあ立場は逆だけれど。わたしがこの空間に崩壊因子を埋め込んでいなかったって、あなた証明できる?」 「……!! まさか、そんな……」 朝倉(偽)の言葉に今度は朝倉がたじろいだ。何だ、いったい? 「わたしが今回再構成されたのは、彼を殺すため。ただそれだけよ。別にわたしは有機生命体としての生活に未練なんてないし、任務が終わればこの肉体は用済み。彼を情報制御空間にさえ誘い込めれば、後は丸ごと全部情報連結を解除してしまえばいいだけのこと。 わたしがそうする可能性、まさか思いつかなかったの?」 「そんな、だって……」 「爪が甘かったわね。そんなだから長門さんに指摘されるのよ」 朝倉(偽)の不敵な笑みに朝倉はわずかに下唇を噛んだ。ナイフを握る手が震える。 「どちらにしても、彼がこの空間に入り込んでしまった以上、わたしの勝ちは決定していたってこと。わたしを消したいのなら、どうぞ。好きにするといいわ。“わたし”は統合思念体の構成情報に戻るだけだし」 朝倉(偽)は腕を広げここぞとばかりに微笑んだ。朝倉はナイフを握ったままもう一人の自分を鋭い目つきで睨んでいる。 だが、俺はと言えば妙な違和感を覚えていた。今こうして笑っている朝倉(偽)と、さっきまで狼狽していたこいつがどうしても重ならない。 そもそもやり方が回りくどすぎる。俺を教室に誘い込んだのは朝倉の手回しなのは分かるとして、そんな手があるなら最初から連結の解除とやらをしておけばよかったんじゃないのか? それとも、朝倉の狼狽する姿を見るためにあえて待っていた? それもおかしい。こいつが統合思念体の一部だってんなら、事が終わってからいくらでもほくそ笑むことだってできるんじゃないのか? もしかしたら―― 「どうしたの? やっぱり怖い? 死ぬのがさ。『死』なんて有機生命体の一概念に過ぎないじゃない。馬鹿らしい」 こいつもどこかで、朝倉と同じことを望んでいるんじゃないのか? 分離し切れなかった2つの意識が、心の片隅でせめぎ合いをしているんじゃないだろうか。 そんなことを考えながら俺の頭はやけに冷静だった。 まるで―― 俺たちがちゃんとこの空間を脱出できるという確信があるかのように。 俺はナイフを握ったまま震える朝倉の手を握った。朝倉の体が震え、ゆっくりとこちらを振り向く。 「心配すんな朝倉。大丈夫だ」 「え……?」 「いいじゃねえか。どっちにしたってあいつを倒さない限りは終わらないんだろう? それに、あいつの言ってることが本当だって証拠もない。罠でもいい。堂々と踏んでやろうじゃねえか。俺はもう踏んじまってるしな。今更どうってこたねえよ」 「でも……」 朝倉が不安げな顔で俺を見つめる。 よせよ。そんな顔はお前には似合わねえぜ。いつも明るい人気者で頼れるクラスの委員長。それがお前だろ? 「いいか朝倉。俺はお前を信じる。だからお前も信じろ。きっと大丈夫だ」 俺は朝倉(偽)の方を見て、口元を歪めてみせた。朝倉(偽)は口元こそ笑みを形作りながらも、面白くなさそうに眉をひそめた。 「宇宙のどこかにいる情報意識体とやらに喧嘩を売るのも悪くない。ハルヒが喜びそうな話だぜ。敵は急進派だけなんだろう? 何かあったら他の派閥が何とかしてくれるんじゃねえか。それに、俺が死んだりしたらハルヒも長門も、古泉や朝比奈さんだって黙っちゃいないだろうさ。っていうか死ぬ気がしねえ。何だかよく分からんけどな。ちゃんと生きて帰れる気がするんだよ。俺も、お前も」 朝倉の不安はまだ消えていない。俺は言葉を続ける。 「だから、やっちまえ。どうなろうと知ったことか。あっさり罠にかかっちまった俺が悪いんだ。お前は悪くない。 俺にできることなんか何にもねえけどな。それでもお前を見届けてやることくらいはできるぜ」 そこまで言って手を離すと朝倉は俯いたまま呟いた。 「……ありがとう」 きっと朝倉は顔を上げる。強い決意を秘めた輝きを放つ、真っ直ぐな瞳で目の前のもう一人の自分を見据えた。そして、 「さよなら、死んで!」 強い踏み込みで朝倉(偽)に飛び掛り、その胸にナイフを突き立てた。朝倉(偽)は抵抗しない。いや、できなかったのか。 ナイフのぶつかる鈍い音と共に朝倉(偽)の胸から鮮血が滴り落ちる。 「……あなたも所詮長門さんと同じね。そんなに操り主のことが嫌い?」 朝倉(偽)は血を吐きながら嘲るような笑みを浮かべ朝倉を見た。 「ええ、そうね。長門さんと同じで構わないわ。統合思念体は……まあ、作ってくれたことには感謝しているけれど」 もう一人の自分にナイフを突き刺したまま、朝倉は強い口調で続ける。 「でも、わたしの自意識はわたしのものだわ。誰の好きにもさせない。キョンくんも……」 そこまで言って朝倉は俺の方を振り向く。何もかも吹っ切れたような、そんなさっぱりとした微笑を浮かべていた。 「……今度はわたしが守る番だわ。だって――」 朝倉(偽)に向き直ると、朝倉は突き立てたナイフを思いっ切り抜き取った。血飛沫が飛び朝倉(偽)が体勢を大きく崩す。 「だってわたしは、長門さんのバックアップだもの」 瞬間、朝倉(偽)の体が発光を始める。過去二回見た情報連結解除とやらと同じように足元から光の粒となって消えていく。 「ふうん……やっぱりあなたもそっちを選ぶんだ?」 朝倉(偽)の嘲笑は消えない。それどころか、哀れむような色さえ浮かべていた。 「まあいいけどね。どちらにしてもわたしには関係のないことだわ。本当に……」 朝倉(偽)が一瞬俺の方を見る。あの長門が改変した世界で見た殺人鬼朝倉のものと同じ笑み。 「急進派のインターフェースが聞いて呆れるわね」 「“わたし”は本当におしゃべりが好きね」 もう一人の自分の言葉を黙って聞いていた朝倉がようやく口を開く。 「でももうわたしは急進派のインターフェースなんかじゃないわ。もちろん、主流派のものでも、穏健派のものでもない」 清々しい声で朝倉は言う。目の前にいる自分と、そして自分自身に言い聞かせるように。 「わたしが辿るのは長門さんと同じ道。喜緑さんには迷惑をかけるかもしれないけれど……」 揺るぎのない真っ直ぐな声。朝比奈さん(大)のお使いをこなしていたあの八日間の長門の言葉が思い出される。 「それでもわたしは“わたし”を許すつもりはないわ。操られていたのだとしても、暴走していたのだとしても、やったことに変わりはないもの」 そこまで言うと朝倉は俺の方を振り向く。 「全ての償いができるとは思っていない。でも、キョンくんが認めてくれた。だから、わたしは生きるの」 「付き合いきれないわね」 朝倉(偽)はもう首まで消えかけていた。そう言って諦めたように首を振ると朝倉(偽)はいつかのように笑いながら、 「もし生きて帰れたら、長門さんたちとお幸せに。じゃあね」 そうして、朝倉(偽)は完全に消失した。 「よくやった、朝倉」 気が付けば本物の朝倉も脚が消え始めていた。そして、俺も。 だが慌てることはない。想定の範囲内さ。 「ねえ、キョンくん……」 「何だ」 朝倉が振り向く。不安げな瞳が俺を見つめる。 「本当にこれで……よかったのかしら?」 「いいのさ」 俺はいつか長門にしてやったように励ますような笑みを浮かべて言った。 「どの道これしか方法はなかったんだ。お前だって、このクソ忌々しい空間にずっと閉じ込められてるくらいだったらいっそ消えちまった方がいいだろ? 俺は嫌だね。好きじゃないんだよ、こういう『閉鎖空間』はな」 朝倉は一瞬きょとんとした顔になった後ふっと小さく笑って、 「そうかな……わたしは、キョンくんがいてくれたらそれでいいけど」 下手な冗談言うじゃねえよ。長門に会いたいんだろ? 俺は会いたいね。もちろん、ハルヒと朝比奈さんと、ついでに古泉ともな。 「そうね……。まずは、会って謝らなくちゃ」 俺たちの体は既に胸の辺りまで消えていた。 もうすぐ俺たちは完全に消失する。『この世界』から。 もしかしたら本当にこれが最期かもしれん。向こうの世界に帰れる保証もない。 だが俺は確信していた。これは終わりなんかじゃない。俺たちはきっと、元の世界に帰れる。 そして、朝倉にとってはこれが始まりなんだ。こいつは生まれ変わった。 「朝倉!」 もう首まで光の粒になっている。消えちまう前に言っておかなきゃならないことがある。 「また明日な!!」 明日会えるかどうかなんて知ったこっちゃない。だけど――クラスメイトと分かれる時は、普通こう言うもんだろ? 朝倉が微笑む。細めたその目から、一筋の涙が零れ落ちた。 「また……明日……!!」 視界が白くなる。意識が遠のく。 まるで――世界が光に包まれたようだった。 「…………」 目を開けた途端にオレンジ色の光が差し込んできて、俺は思わず目を細める。 目をゆっくりと開けて窓の外に目をやると黄昏が空に広がっていた。 辺りを見回すと、間違いない、ここは俺のクラスの教室で、俺は自分の席に座って眠っていたようだ。 ……いや、違う。 夕暮れの教室に立っていた消えたはずの朝倉。いつかと同じ極彩色の空間。そして俺を救ったもう一人の朝倉。 その全てが鮮明に脳裏に蘇ってきた。 俺は戻ってきたのだ。あの空間から。 「朝倉!」 立ち上がって朝倉の名を叫ぶ。返事はない。 俺だけが、あの空間から脱出できたのか……。 いや、違う。そんなはずはない。そんなことがあってたまるか。 絶対にあいつは戻ってくる。そしてまた俺たちのクラスにやってきてクラスメイトたちの歓声を浴びるんだ。 必ずまた会える。約束したんだ。また明日――俺たちは、普通のクラスメイトとして。 だから帰ろう。帰ってさっさと飯食って寝て――と、その前に長門と喜緑さんの無事を確認しとくのも忘れちゃいけないな――、明日朝早くに起きてこの教室に一番乗りしてやる。 あいつはきっと――待っていてくれるはずだ。 俺はいつものように学校へと続く坂をえっちらおっちらと登っていた。 いつもと違うのは、この道を歩いてる時間がいつもの1時間以上早く、他に歩いてるような奴が誰もいないってことだ。 目的はただ一つ。教室に一番乗りするために。 いや、違うな。きっと俺より先に来て、俺を待っている奴がいるはずだ。 自然と早足になり、いつもより早く坂を登りきった俺は昇降口で靴を履き替え、ついに駆け足となって階段を1段飛ばしで駆け上がる。 少しでも早く、あいつに会いに行くために。 きっとクラスの連中は驚くだろう。一年前にカナダに転校したはずのクラスメイトが、突然戻ってくるんだ。そりゃあ大騒ぎに違いない。 ハルヒは間違いなく目をつけるだろうし、あわよくばSOS団に引っ張りこんじまうかもしれない。 万が一そうでなかったとしても俺がハルヒに口聞きしてやったっていいし、長門も許してくれるだろう。 誰もあいつを拒みはしない。誰もがあいつを笑って迎え入れるだろう。俺でさえ、その準備が整ってるんだからな。 階段を登り廊下を走って自分のクラスの戸の前まで来ると一つ深呼吸をして乱れた呼吸を整える。 希望と確信の入り混じった心持ちで俺は戸を勢いよく開いた。 「……よお」 窓際に立って校庭を眺めていたそいつは、俺の声に気付き長い髪を揺らしてゆっくりと振り向くと俺の姿を見て微笑む。 次に聞こえてくるであろう言葉を俺は何となく分かっていた。だから先に心の中でつっこんでおこう。 お前はいつから、そこにいたんだ? 屈託のない明るい少女の笑みを浮かべてそいつは言った。 「遅いよ……罰金、かな?」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2645.html
エピローグ 後で聞いた話になる。・・・前にも使ったな、このフレーズ。 「あの時、涼子は確かに周防九曜とともに情報連結を凍結された」 いつもならばこの手の役割は古泉が喜んで請け負うのだが、今回の解説役は長門だ。 餅は餅屋、というやつである。 「しかし、わたしはあなたと別れた後教室に戻り、涼子を周防九曜とともに情報統合思念体のもとへ転送した」 そういえば、あの時長門は氷像と化した朝倉をどうにもしなかったな。 最低限どこかに運ばなければ翌朝にでも大変な騒ぎになるというのに、あの時はそんなことにも気付かなかった。 「その後、統合思念体は凍結状態のまま涼子たちを引き剥がし、周防九曜のみを情報連結解除した」 そんなこともできるなんて、長門の親玉は相変わらず凄すぎるな。 しかし、どうせナントカ解除をするんだったら、どうしてあの場でそれをしなかったんだ? 「涼子が巻き添えを食らって消滅してしまう。それに、もしあの場で周防九曜の情報連結を解除していれば、『ハルマゲドン』が完全起動する可能性があった。インターフェースの処理能力ではその可能性を払拭しきれない。涼子はあの状況において、最も適切な判断に基づいて行動した」 以前その台詞を言った時とはうって変わって、どこか誇らしげな様子で言う長門。 しかしな、長門よ。 「なに?」 「どうして、あの場でそれを言ってくれなかった?」 そうすれば、俺はこんなに苦しまずに済んだのではないだろうか。 「ごめんなさい。わたしも知らなかった。あなたと別れた後、わたし宛にこの音声データが」 「・・・なんだって?」 『やっほー、有希ちゃん元気かなあ? パパだよぉ~。 それでね、さっきの涼子ちゃんなんだけど、急進派が死ぬほど心配してるからこっちに転送してくれないかな?うん、あとはこっちで凍結解除して、涼子ちゃんだけ送り返すから。一ヶ月くらいかかるかもだけど。 あ、あとキョン君にはこのことは秘密で。その方が面白いでしょ? んじゃま、そゆことで~♪』 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 もはや、怒りを通り越して呆れた。言葉も出ない。 なんで俺には秘密なんだ。長門も長門でそんな指令に律儀に従うな。それ以前になんであんたはそんなにキャラ軽いんだ。 色々と言いたいことはあるのだが、とりあえず、 「・・・宇宙生命体にまであだ名で呼ばれるのか、俺・・・・・・・・?」 「・・・・・・・・・ごめんなさい」 § さて、朝倉が改めて転校してきた日、我がSOS団にも多少なりとも変化が見られた。 長門印の解説によって思念体とやらへのイメージが音を立てて崩れ去った後、SOS団のアジトたる文芸部室に来客があったのである。 その来訪者は、やはり例によって例のごとく涼宮ハルヒ団長閣下に連れられてやってきた。 「みんなー! 今日は新団員を紹介するわよぉっ♪」 いつものように無駄に元気なハルヒにまた誰かとんでもない奴を巻き込んだのか、と文句の一つもくれてやろうと口を開きかけて振り向いた俺は、 「こんにちわ、朝倉涼子です。皆さん、よろしくね」 自分でも面白いくらいその場で固まった。 リアクションが取れずに硬直しきりの俺にウインクを投げかけた後、朝倉はハルヒに対して楽しげに問うた。 「それで、ここは何をする部・・・じゃなかった、団体なの?」 本当は知ってるんでしょ。わかってるくせに。 平行世界のどこぞの動画サイトで明らかになった高速詠唱逆再生まがいのボケを心の中で行い、そのあまりの低レベルさにやはり心の中で悶絶している間にも、ハルヒと朝倉の問答は続いていたらしい。 「面白そうね、それ。わたしも参加させてほしいな」 おいおい。そんなんでいいのか、朝倉よ。 仕方がないので現実逃避をやめ、俺はハルヒに訊いてみることにした。 「・・・で、今度はどんな属性があるから連れてきたんだ?」 本当は考えるまでもない。ぶっちゃけ答えは分かりきっているが、それでも訊いてしまうのは雑用兼団長暴走時用緊急ストッパー故の悲しいSa・Gaなのか。 「決まってるじゃない」 あぁ、予想できる。したくもないのにできてしまう。 「見るからに『私、委員長です』ってキャラしてるからよ!!」 ・・・・・・はぁ。 そんなの当たり前だろう。ほんまもんの委員長なんだから。 思わず嘆息した俺に苦笑して、朝倉はまさしく委員長スキルを発動させた。 「話が進まないから戻すけど、私も団員になっていいのね?」 「もちろんよ! よろしくね、涼子!」 おや、珍しい。ハルヒが朝倉を名前で呼んだ。 やっぱり女子団員は名前で呼ぶのか? 長門然り、朝比奈さん然り。 「ほらキョン、何ぼさっとしてるのよ! すぐに涼子の分のパソコン貰いに行くわよ!?」 やめてやれ。あまり植民地で圧政を敷きすぎると、その先に待つのは反乱のみだぜ。 俺は叛旗を翻すコンピ研の連中を想像してそれはないかなとすぐにその像を打ち消して、朝倉に耳打ちをする。 「・・・いいのか?」 それだけで、きっとこいつには通じてくれる。 無駄な言葉で飾り立てなくても、互いの心は相手に伝わる。 「ん。私、もともとこういうの好きだし・・・何より」 「・・・何より?」 その先は、予想できた。予想できたからこそ、俺は問う。 「キョン君がいてくれるから・・・ね?」 互いに以心伝心である、という幸せ。 その幸せを、よりしっかりと、噛みしめるために。 § おまけ ●<「・・・僕ら、今回は出番がありませんでしたね」 み「ほんとですね~。いい加減にしねぇとケツの穴から手ェ突っ込んで奥歯ガタガタいわしたるぞゴルァ! って感じですよね」 ●<「ちょっ・・・! 朝比奈さん、ストップストップ! 言い回し違うしキャラ変わってる・・・」 み「地ですよ?」 ●<「・・・・・・Σ((((°Д°;))))ガクガクブルブル」 み「うふふ、そんなに怯えちゃって・・・これは、すこし『授業』が必要ですかぁ?」 ●<「なぁ、あ、朝比奈さん!? ちょ、どこ触って・・・! あ、いやぁ、そこは、アッーーー!」 おしまい♪
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2554.html
エピローグ 後で聞いた話になる。・・・前にも使ったな、このフレーズ。 「あの時、涼子は確かに周防九曜とともに情報連結を凍結された」 いつもならばこの手の役割は古泉が喜んで請け負うのだが、今回の解説役は長門だ。 餅は餅屋、というやつである。 「しかし、わたしはあなたと別れた後教室に戻り、涼子を周防九曜とともに情報統合思念体のもとへ転送した」 そういえば、あの時長門は氷像と化した朝倉をどうにもしなかったな。 最低限どこかに運ばなければ翌朝にでも大変な騒ぎになるというのに、あの時はそんなことにも気付かなかった。 「その後、統合思念体は凍結状態のまま涼子たちを引き剥がし、周防九曜のみを情報連結解除した」 そんなこともできるなんて、長門の親玉は相変わらず凄すぎるな。 しかし、どうせナントカ解除をするんだったら、どうしてあの場でそれをしなかったんだ? 「涼子が巻き添えを食らって消滅してしまう。それに、もしあの場で周防九曜の情報連結を解除していれば、『ハルマゲドン』が完全起動する可能性があった。インターフェースの処理能力ではその可能性を払拭しきれない。涼子はあの状況において、最も適切な判断に基づいて行動した」 以前その台詞を言った時とはうって変わって、どこか誇らしげな様子で言う長門。 しかしな、長門よ。 「なに?」 「どうして、あの場でそれを言ってくれなかった?」 そうすれば、俺はこんなに苦しまずに済んだのではないだろうか。 「ごめんなさい。わたしも知らなかった。あなたと別れた後、わたし宛にこの音声データが」 「・・・なんだって?」 『やっほー、有希ちゃん元気かなあ? パパだよぉ~。 それでね、さっきの涼子ちゃんなんだけど、急進派が死ぬほど心配してるからこっちに転送してくれないかな?うん、あとはこっちで凍結解除して、涼子ちゃんだけ送り返すから。一ヶ月くらいかかるかもだけど。 あ、あとキョン君にはこのことは秘密で。その方が面白いでしょ? んじゃま、そゆことで~♪』 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 もはや、怒りを通り越して呆れた。言葉も出ない。 なんで俺には秘密なんだ。長門も長門でそんな指令に律儀に従うな。それ以前になんであんたはそんなにキャラ軽いんだ。 色々と言いたいことはあるのだが、とりあえず、 「・・・宇宙生命体にまであだ名で呼ばれるのか、俺・・・・・・・・?」 「・・・・・・・・・ごめんなさい」 § さて、朝倉が改めて転校してきた日、我がSOS団にも多少なりとも変化が見られた。 長門印の解説によって思念体とやらへのイメージが音を立てて崩れ去った後、SOS団のアジトたる文芸部室に来客があったのである。 その来訪者は、やはり例によって例のごとく涼宮ハルヒ団長閣下に連れられてやってきた。 「みんなー! 今日は新団員を紹介するわよぉっ♪」 いつものように無駄に元気なハルヒにまた誰かとんでもない奴を巻き込んだのか、と文句の一つもくれてやろうと口を開きかけて振り向いた俺は、 「こんにちわ、朝倉涼子です。皆さん、よろしくね」 自分でも面白いくらいその場で固まった。 リアクションが取れずに硬直しきりの俺にウインクを投げかけた後、朝倉はハルヒに対して楽しげに問うた。 「それで、ここは何をする部・・・じゃなかった、団体なの?」 本当は知ってるんでしょ。わかってるくせに。 平行世界のどこぞの動画サイトで明らかになった高速詠唱逆再生まがいのボケを心の中で行い、そのあまりの低レベルさにやはり心の中で悶絶している間にも、ハルヒと朝倉の問答は続いていたらしい。 「面白そうね、それ。わたしも参加させてほしいな」 おいおい。そんなんでいいのか、朝倉よ。 仕方がないので現実逃避をやめ、俺はハルヒに訊いてみることにした。 「・・・で、今度はどんな属性があるから連れてきたんだ?」 本当は考えるまでもない。ぶっちゃけ答えは分かりきっているが、それでも訊いてしまうのは雑用兼団長暴走時用緊急ストッパー故の悲しいSa・Gaなのか。 「決まってるじゃない」 あぁ、予想できる。したくもないのにできてしまう。 「見るからに『私、委員長です』ってキャラしてるからよ!!」 ・・・・・・はぁ。 そんなの当たり前だろう。ほんまもんの委員長なんだから。 思わず嘆息した俺に苦笑して、朝倉はまさしく委員長スキルを発動させた。 「話が進まないから戻すけど、私も団員になっていいのね?」 「もちろんよ! よろしくね、涼子!」 おや、珍しい。ハルヒが朝倉を名前で呼んだ。 やっぱり女子団員は名前で呼ぶのか? 長門然り、朝比奈さん然り。 「ほらキョン、何ぼさっとしてるのよ! すぐに涼子の分のパソコン貰いに行くわよ!?」 やめてやれ。あまり植民地で圧政を敷きすぎると、その先に待つのは反乱のみだぜ。 俺は叛旗を翻すコンピ研の連中を想像してそれはないかなとすぐにその像を打ち消して、朝倉に耳打ちをする。 「・・・いいのか?」 それだけで、きっとこいつには通じてくれる。 無駄な言葉で飾り立てなくても、互いの心は相手に伝わる。 「ん。私、もともとこういうの好きだし・・・何より」 「・・・何より?」 その先は、予想できた。予想できたからこそ、俺は問う。 「キョン君がいてくれるから・・・ね?」 互いに以心伝心である、という幸せ。 その幸せを、よりしっかりと、噛みしめるために。 § おまけ ●<「・・・僕ら、今回は出番がありませんでしたね」 み「ほんとですね~。いい加減にしねぇとケツの穴から手ェ突っ込んで奥歯ガタガタいわしたるぞゴルァ! って感じですよね」 ●<「ちょっ・・・! 朝比奈さん、ストップストップ! 言い回し違うしキャラ変わってる・・・」 み「地ですよ?」 ●<「・・・・・・Σ((((°Д°;))))ガクガクブルブル」 み「うふふ、そんなに怯えちゃって・・・これは、すこし『授業』が必要ですかぁ?」 ●<「なぁ、あ、朝比奈さん!? ちょ、どこ触って・・・! あ、いやぁ、そこは、アッーーー!」 おしまい♪
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4796.html
「長門有希は、『涼宮ハルヒの力』を用いて世界を作り変えるのと同時に、 『涼宮ハルヒの力』の一部をプログラムに変え それを文芸部室のコンピューター内へと封じ込めた。 あなたに、世界の選択を行わせるために。 ……しかし、そのプログラムはある人物の手によって盗み出された。 長門有希が望んだ、裁定者の目に触れるよりも早くに」 そして。その盗み出されたプログラムが、時を経て俺の前に現れ…… 俺はそのプログラムを起動させ……今、此処にいる。 「この空間は、緊急脱出プログラムの内部に発生した異次元世界。 長門有希が『涼宮ハルヒの力』を入手した際に 長門有希の精神の異常によって発生したと思われる。 その後、長門有希の手によって世界は改変され 『涼宮ハルヒの力』の一部はプログラムへと変化した。 その際に、この世界もまた、プログラムの一部として保存された」 なるほど。俺は呟きながら、改めて、灰色の室内を見回してみた。 ……長門有希の閉鎖空間か。 言われてみれば、ハルヒによって作られたそれとは、どこか違った趣が有るような気がしないでもない。 「そしてもう一人。 このプログラムを盗み出し、解析を行い データ化された『涼宮ハルヒの力』をロードした者が居た。 ……それが、朝倉涼子。 彼女は手にした『涼宮ハルヒの力』を使って この緊急脱出プログラムの一部を作り変えた。 具体的には、非常用モードの作成。 それはこのプログラムの構成部分へと侵入するためのコマンド。 ……あなたが今、此処に存在しているのは、そのコマンドを実行したため」 「朝倉も、この世界に来たのか」 「来た。しかし、このモードを作成するよりも前。 彼女はこのプログラムから再生した『涼宮ハルヒの力』を使って この空間へとアクセスを行った」 「朝倉は、今もこの世界に居るのか?」 「今はいない。それ以上のことは、私は知らない」 「そうか」 俺はため息をつき、デスクの上に置かれている、長門の物語の映し出されたパソコンのディスプレイを見た。 あいつもまた、この物語を読んだのだろうな。 この世界でか、それとも、外の世界でかまでは、俺にはわからんが。 「朝倉が、その非常用モードとやらを作った理由は?」 「分からない。しかし、想定は可能」 「それでいい」 「あなたに、この空間を訪れさせるため」 なるほど。 それで。 この空間を訪れた俺は、一体何をすればいい? 「長門有希があなたに望んだのは、未来の選択。 しかし。その選択は、すでに下されたと言っていい。 ……朝倉涼子の手によって」 そう。 俺に残された道なんて、たった一つしかない。 ハルヒは死に、朝倉は消えてしまった。 たった数日の間に、すっかりいかれちまったあの世界を、元に戻さなければならない。 俺にはそれ以外、どんな道も残されちゃいないのだ。 「朝倉涼子は、あなたのために用意されたメッセージを入手し それを古泉一樹に預けるという形で保管していた。 そして、緊急脱出プログラムのバックアップを入手して プログラムを凍結保存することで、タイムリミットを延長しようと試みた」 「朝倉は一体、何のために、そんな面倒なことをしたというんだ?」 「選択を保留にするため。と、考えられる」 そこまで話した後で、そいつはすこしだけ、表情を曇らせたような気がした。 「彼女が厳密に、長門有希の用意したプログラムの存在に気づいたのは この緊急脱出プログラムのバックアップを入手した際。 おそらく、朝倉涼子がプログラムのコピーを入手したのは、偶然の出来事。 朝倉涼子はたまたま、緊急脱出プログラムの保存されたフロッピーディスクを 長門有希から渡された」 「それが、あの小説のフロッピーか」 「長門有希は……彼女の書いた小説のファイルが、他人に目に晒されることを 改変された世界の長門有希が望むことは無いだろうと考えていた。 故に長門有希は、緊急脱出プログラムを、小説のテキストファイルへと偽装し それを文芸部室のコンピューターの内部へと宿した。 ……長門有希が朝倉涼子に、そのフロッピーディスクを渡してしまった事。 それが、全てのイレギュラーの始まり」 長門有希は、自分で思っているよりも、朝倉涼子を信頼していた。 そう言うことなのだろうか。 朝倉。うらやましいぜ。 なにしろ、俺はその小説を読ませてもらえなかったんだからな。 「しかし、凍結したプログラムを再び起動しても エラーが発生してしまい、正規の起動は不可能だった。 故に、彼女はこの非常用モードを構築した。 プログラムの解析を行い、『涼宮ハルヒの力』を再現して」 「朝倉はつまり、何を望んでいたんだ?」 「はじめに彼女を動かしたのは、世界の修正を行わず 改変されたまま世界で、長門有希と生きたいと願う気持ちと思われる。 あなたが世界の修正を選択することを恐れた。 故に、朝倉涼子は、一連の工作を行った。」 「なら、何故いまさらになって、俺を真相へと近づけようとしたんだ」 「長門有希の幸せのため」 長門の、幸せだって? つまり、朝倉は、気が変わっちまったってのか。 この一ヶ月、俺と、朝倉と、長門の三人で過ごした日々を経て…… 長門有希は、改変される以前の世界で生きたほうが、幸せでいられるんじゃないかと。 そう考えたって事なのか? 「……正確には」 そいつは言った。 「長門有希の幸せのために、自分が長門有希の傍に存在する必要はない。 彼女はそう判断したのだと思われる。 しかし……仮に、自分を不要と考えた朝倉涼子が 長門有希とあなたの前から消失したならば。 長門有希は、きっと、悲しむであろう。朝倉涼子はそう考えた。 彼女は、長門有希が悲しむことを望まなかった」 そうだな、あいつなら、きっと悲しむだろう。俺もそう思うよ。 と言うより、実際にそうだったさ。 そうだ。長門を悲しませたくないってわりに、朝倉は事実、俺たちの前から姿を消しちまったじゃあないか。 矛盾している。なぜ、あいつは長門を悲しませると分かってて、消えちまったりしたんだ? 「世界を修正さえすれば、全ては元通りになる。長門有希の、悲しみの記憶も だから。彼女は、あなたに世界を修正する道を選ばせようとした」 そのために、ハルヒを殺してか? 「おそらく」 ……一つ、聴いていいか 「何」 朝倉は、世界を修正する場合には、こうして俺に世界の修正を行わせるつもりだったんだよな? そのために、あいつはハルヒの力を使ってまで こんな面倒な、非常用モードなんてもんを用意した。 しかし……そんなことを企てるより、あいつが自分で世界を修正しに行ったほうが、よっぽど早かったんじゃないかと思うんだが。 それは、無理なことだったのか? 「不可能ではない。朝倉涼子にもまた、鍵は用意されていた。 ……長門有希によって用意された、改変された世界を修正するための方法は 時空間を移動し、長門有希が世界を再変した直後の世界へと出向き その場で修正プログラムを起動すること」 修正プログラム? 「そう。長門有希は、一人分の修正プログラムを用意することしか出来なかった。 故に、あなたが世界を修正する場合には、この『緊急脱出プログラム』によって あなたに一度時空間移動を行わせ、過去の長門有希が構築したプログラムを 入手させる手筈だった。 ……この時空の長門有希によって構築された修正プログラムは 十二月十八日の午後に、彼女の手に渡されていた。 彼女がそれを受け取った時に、全てを理解できるような形状で。 そして、彼女が時空間移動をするための手段も確保されていた」 しかし。朝倉は、世界を修正しようとはしなかった。 「彼女は、自らの手で、自己の存在を消滅させるにあたる選択を行うことを望まなかっただと思われる」 なるほど。 納得の理由だ。文句の付け所もない。 ……具体的に。俺は一体、何をしたらいいのだ? 「あなたがするべきことはただ一つ。世界の修正。 しかし、あなたを時空間移動させるためのこのプログラムは すでに起動不可能な状態となっている。 そのため、あなたが修正プログラムを入手することは不可能。 残された方法はひとつ。 朝倉涼子が行ったのと同じように、このプログラムを解析し 『涼宮ハルヒの力』の再現を行う。。 あなたは『涼宮ハルヒの力』を使い、世界を再び改変する。 修正ではない。あなたの知る、以前の姿へと作り直す」 「えらく、難しそうだな」 「言語での説明は不可能。しかし、それは困難なことではない」 俺の目の前に現れてから微動だにしていなかったそいつが、初めて動いた。 窓際の椅子から腰を上げ、俺の元へと歩み寄ってくる。 「私に触れて」 「それだけでいいのか?」 「私は、『涼宮ハルヒの力』の化身」 そういえば、ここは長門の閉鎖空間なんだったか。 閉鎖空間に一人たたずむ、力の化身……なるほど。それがこいつの正体か。 巨人の姿をしたあちらさんと比べて、なんと大人しい事だろう。 俺は右手を伸ばし、人差し指と中指の先で、そいつの頬に触れる。 暖かい。 「……始まる」 「どうすればいいんだ?」 「望んで」 相変わらずの端的な支持を受け、俺は言われた通りに、目を閉じ、望む。 何を望んだのかって? 一言でいうなら、何もかもをだ。 ―――― なあ、朝倉。 なんと言ったら良いんだろうな。 謝るのも違うが……例を言うのも違う気がする。 かといって、俺にお前を叱り付ける権利などもないだろう。 なんだろうな。 お前に何かを伝えなきゃならんのだろうが…… 何を言ったら良いんだか、さっぱりわからないんだ。 ただ――お前がさ、朝倉。 あと少しだけ、長門を好きじゃなかったなら――― 俺たちは、ずっと……あのままでいられたかもしれないな。 ……すまん、意味はないんだ。 ただ、思っただけさ。 まずいな。こんな大事な時に、こんなことを考えてたら 世界をおかしな具合に変えちまうかもしれん。 終わりにするしよう。 じゃあな、朝倉。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4155.html
前回のあらすじ 涼宮ハルヒの情報観測の邪魔をする存在、下衆谷口。 そんな谷口の下衆加減に業を煮やした情報統合思念体の急進派がついにキレた。 再度、有機生命体として現れた朝倉涼子が、長門、喜緑とのアットホームドラマを繰り広げてついに動き出した! 谷口「ふほほ。インターネッツは便利なものでございますな」 谷口「18歳未満でも 『はい』 とか 『I agree』 とか 『承認する』 とか勝手にHOIHOIクリッコしていけば、お宝映像がフォルダー内にざっくざく」 谷口「徳川埋蔵金なんて目じゃないね!」 谷口「谷口です」 朝倉「ぁどっこいしょお!」 どかん! 谷口「ふふん!? インターネッツに夢中になっている俺のマイルームドアを蹴り破って誰かが侵入してきただと!?」 谷口「敵襲! 敵襲! 身の程知らずの不埒者が現れおったぞよ! 者ども、出あえ出あえ!」 谷口「あ、今ひらめいた! 『出あえ出あえ』って、『出会え出会え』 と言うとなんかAVのタイトルっぽくて卑猥! なんという発見www」 谷口「ゲスゲスゲスwwww」 朝倉「問題発言! 猥褻罪の現行犯よ! 刑執行! ネット上での年齢詐称も合わせ技で即死刑、刺殺決定!」 谷口「ぎゃひん! ワイルド7が現れた! 猥褻罪ってなんだ!? 年齢詐称ですいません! 馬鹿田大学卒業生の24歳って言う設定でインターネッツやってました!」 朝倉「謝っても赦してあげないわよ! 謝って済んだら法治国家はいらないんだから!」 朝倉「よって即排除決行! この99人の有機生命体の生き血をすった刃渡り80cmナイフ、朝倉丸で下腹部を思くそこねくりまわして あ げ る !」 谷口「いやん、めっさ日本刀! こんなモラリストにはついていけないから実家へ帰らせていただきます!」 がしゃん 朝倉「ちっ。窓ガラスを割って外へ逃げたか。けど、朝倉丸の刃から逃れらると思わないことね!」 ~~~~~ 谷口「はあはあはあ!」 谷口「いったい、いったい何なんだこの状況は!?」 谷口「俺が自室でハイパーセルフネットサーフィンしてたら、日本刀を持った帰国子女が俺に斬りかかってきた!?」 谷口「これじゃあ三流スプラタホラーのワンシーンじゃないかよ!」 谷口「え、嘘!? これってホラー映画の撮影中なの!? いやん、今日お化粧してきてないよ!」 谷口「映ってる? ねえ、映ってる? おーい、北高のみんな見てるか!?」 朝倉「逃がさないわよ! イッツショータイッ!」 谷口「イッツショートタイツ!? 確かにタイツは好きだけど! できれば黒でお願いします!」 朝倉「悪いけど、私はスパッツ派なのよね」 朝倉「この空間内では私が圧倒的有利! 私の意に背くことは叶わないのよ!」 谷口「バカな、どこまで走っても逃げ切れない! 夜とは言え、通りに人がまったくいない!?」 谷口「しまった、もう逃げ道が……!」 朝倉「さあ、もう満足いくまで足掻けたかしら?」 谷口「お前、何の目的でこんなことを……金ならないぞ!」 朝倉「金? あはは。そんな物には興味ないって。用があるのは、あなたの身体だけ」 谷口「はあはあはあ。身体ですとな!? まさかのエロゲ展開!」 朝倉「そうよ。あなたの身体」 谷口「ま、まさか、俺の股間の 【禁則事項です】 とか、さらにその下についている 【禁則事項です】 とか、あまつさえ裏側にある 【禁則事項です】 までも狙っているのでは……はあはあはあ! これはこれで興奮を隠し切れないSMプレー!」 朝倉「そうねえ。あなたの股間の 【禁則事項です】 を朝倉丸でそぎ落としてみるのも面白そうだわ。さらにその下についている 【禁則事項です】 を卵をつぶすようにすり潰して、さらにさらにその裏側にある 【禁則事項です】 に朝倉丸の柄をつきたててあげるのも楽しそうね」 谷口「うふん、SM超上級者!」 朝倉「私ね、赤い液体とかひねり出すような悲鳴とか、そういうものが大好きなの」 朝倉「あ、もちろん性的な意味で」 朝倉「有機生命体のすべすべした肌がぱっくり破れて、中からぶくぶくって泡をあげながら血があふれてくるのって、とてもファンタスティックだと思わない?」 朝倉「痛みに耐え切れずに悲鳴をあげているのを聞いていると自分が確かにここに存在していて、他の存在に対して影響を及ぼしているっていう実感と達成感がえられて心が満たされるじゃない」 朝倉「じわじわ汗をにじませながら目尻や額にしわを寄せて苦しむ人を見ていたら、とてもカタルシス的な色気を感じるじゃない?」 朝倉「意思を持つものが意思を持ち続ける上で絶対に必要なことは、征服感なのよ。他者よりも自己こそが勝っていると言う証明を求める。それこそが意識を持つ存在特有の本質であり、それを満たしてこそエクスタシーを感じ資格があると言っても過言ではないでしょう」 朝倉「私には有機生命体の死というものがよく理解できないのだけれど、あなたの死を実感できれば、もしかしたら私も逆説的な意味で生というものを感じることができるかもしれないわ」 朝倉「だから。ね。私のために血だるまになってよ」 谷口「このシリーズ始まって以来、様々なタイプの変態さんたちに出会ってきたけれど。サディスティックウーマンは始めてのタイプだわ」 朝倉「最終回直前にふさわしい展開でしょ?」 谷口「なにをもってふさわしいと言えるのか謎だが、これじゃおちおち下衆イズムを発揮してらんないぜ!」 谷口「とにかく、そんな理解不能なお遊びにニャンニャン付き合ってる暇はないんだ! 俺は逃げるぜ! あーばよ、とっつぁん!」 朝倉「うふふ。逃がさないわよ」 谷口「ふぐお!? な、なんだこれは。まるで金縛りに遭ったかのように身体が動かない!」 朝倉「これで逃げられないわね。手こずらせてくれちゃって」 谷口「ちくしょう……どうせ身体の自由を奪うんなら、超能力じゃなくて亀甲縛りの緊縛プレーだろ常識的に考えて」 朝倉「さあ、うふふ。身動きできないあなたの全身の皮を剥ぎ落として、余すところなく皮下組織をなめまわしてあげるわ」 谷口「ちょwwwさすがの俺もこれは引くわwwwww」 朝倉「どうぞ。抵抗してくれてけっこう。その方が楽しいものね」 谷口「くそ、このままじゃ谷口さんがスライスチーズにされてしまう! 【禁則事項です】 が 【禁則事項だYO】 になっちまう!」 谷口「くそ、くそくそ! 動け、俺の身体! 動いてあの刃を避けてくれ!」 朝倉「それじゃ、そろそろ死んで」 谷口「頼む! 俺に、俺に力をわけてくれ、藤原!」 ~~~~~ 藤原「むふふ。今日も大漁大漁」 藤原「これだから電車でGOはやめられない!」 藤原「ん? なんだ?」 藤原「どこからともなく、谷口氏の声が聞こえるぞ」 藤原「しかも俺に助けを求めているようだ」 藤原「谷口氏、谷口氏、どこにいる!? うむむ、まさか彼の身に何らかのアクシデントが!」 藤原「谷口氏、俺が今からパワーを送る! 我が痴漢電車パワーを受け取るがいい!」 藤原「いくぞ!」 藤原「ほわあぁぁぁぁぁぁい!!」 藤原「マッガーレ」 ~~~~~ 谷口「でりゃあああ! 真剣白羽取り!!」 朝倉「なっ!? そんな、谷口は私の情報干渉によって動けない身体のはずなのに!」 谷口「ふふふ。お前が何者なのかは知らないが、変な力で俺の動きをとめたって、そんなの関係ねえ!」 谷口「我が友、藤原が痴漢パワーを送信してくれたおかげで俺の腕と上半身が動くようになったのさ!」 朝倉「そんなバカな……。し、しかし。まだ私の優位は変わらない! 今度はその足から斬りとってあげるわ!」 谷口「や、やばい。上半身はなんとか動くようになったが、下半身までは……!」 谷口「中河、中河! 俺を助けてくれ!」 ~~~~~ 中河「大漁大漁。大漁にござる」 中河「アメフト冥利につきるというものですな。ハットハットハット!」 中河「ぬふ。つるつるシルクの手触りパンティwwwww」 中河「ん、ん~?」 中河「今、どこからもともなく谷口殿の叫びが聞こえたような」 中河「はっ! まさか、今まさに谷口殿は敵と交戦中なのでは!?」 中河「こうしてはいられない。今すぐ我がアメフトパンティ力を送信してあげざるをえない!」 中河「いくぞ谷口殿! 受け取ってたもれ! むむむむむ……」 中河「フタエノキワミ! アッー!」 ~~~~~ 谷口「カモシカの足ジャンピング!」 朝倉「そんな! 上半身だけでなく、下半身までも情報干渉下において自由に動かせるなんて!」 谷口「みたか朝倉涼子! これが我々、刎頚の友の力だ!」 朝倉「たまたま、そう、たまたまよ! 私の情報空間がやぶられるわけなんてない!」 朝倉「直接攻撃がダメなら、こういう手はどう!?」 谷口「なに!? 周りに落ちていた石ころが槍に姿を変えて襲い掛かってくる!?」 谷口「四方八方から襲い掛かられては逃げ場がない!」 朝倉「今度こそ、とった!」 谷口「老師、老師! 我が師、老師よ!」 ~~~~~ 鶴屋(老)「ほっほっほ。わしが産婦人科の鶴屋医師じゃ」 鶴屋(老)「さあさあこっちに来てごらんマタニティ」 ぴきーん 鶴屋(老)「むっ! こ、この声は……我が弟子のひとり谷口の魂の叫び声!」 鶴屋(老)「こうしちゃおれん。マタニティへのセクハラは後と回しじゃ」 鶴屋(老)「わしの至上因業念動力を受け取るのじゃ!」 鶴屋(老)「みょあああああああああああああああ!!」 鶴屋(老)「エッチスケッチワンタッチ」 ~~~~~ 朝倉「今度こそもらった! 谷口の串刺しのいっちょうあがりだわ! zkzk!」 谷口「甘いぞAAランク+少女!」 谷口「これが、これが老師より受け継いだ奥義だ! ふああああぁぁぁぁ!!」 谷口「秘奥義、爆肉性欲壁!」 朝倉「なっ!? そんな! 谷口の身体が異様なほど筋肉で膨れ上がり、鉄をも貫く朝倉アローを跳ね返したですって!?」 谷口「むふー。むふふー」 谷口「見たか朝倉涼子よ。これこそが下衆流格闘術奥義、爆肉性欲体よ」 谷口「下衆流格闘術の真髄は人間の三大欲求のうち、食欲、睡眠欲の二つを全て消し去り、性欲だけを特化させることにある」 朝倉「な、なんですって!? 有機生命体の三大欲求といえば、自己の存在を支えるもっとも根幹となる部分。その二つまでを性欲に組み替えるなんて……その強大さは、まさにビックバン!」 谷口「その性欲をそっくりそのまま筋肉組織に置換することにより、機関銃をも跳ね返す強靭な肉体が完成するのだ」 谷口「ああ。聞こえるぞ。世界が、宇宙が、森羅万象が、この俺を讃える声……」 たっにぐち! たっにぐち! たっにぐち! 谷口「我が下衆流性欲制御術は、いわば生の術。自らを守り、人を守り、子孫を残す。そこには生物としてあるがままの姿がそのまま投影されているのだ」 谷口「その在り様は、まさに偉大なる自然そのもの。我が強さと健康の秘訣は、ナチュラルパワーにこそある」 朝倉「しかし、しょせんはそんなものは愚かな有機生命体の足掻きにすぎないのよ。死を司る私の朝倉丸が、下衆流格闘術など児戯にも劣る子供だましだということを証明してあげる!!」 谷口「面白い。そう思うのなら、かかってきなさい。今こそこの、生と死、表と裏、光と闇の戦いに終止符を打つ時なのだ」 朝倉「小細工は弄さないわ。行くわよ、朝倉丸!」 谷口「この反りかえる雄々しき肉体を恐れぬのなら、かかってきなさい!」 朝倉「てああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 谷口「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 カッ!! ~~~~~ 朝倉「ぐふっ!」 朝倉「そ、そんな……無敵のはずの、私の朝倉丸が……砕けるなんて……」 谷口「ふん。この美しき逆三角形の肉体美に、そのような怪しげな刃物など通用しないのだ」 朝倉「……負けたわ。しょせん有機生命体の浅知恵よと侮った私の完敗」 谷口「ようやく分かったようだね朝倉ガール」 谷口「人間は自然の一部。それを忘れ、いかに文明科学を発達させようとも、大自然の手の上から逃れることは不可能。自然を味方につけ、生物の理を真に理解した我が下衆流格闘術にまやかしの刃など通じないのだよ」 朝倉「生物のもつ命の力がこんなにも強いものだったなんて。私は勘違いをしていたみたいね。それに気づかなかった私は、やっぱりただの愚かなバックアップだったのね……」 朝倉「迷惑をかけたわね、谷口くん。敗者はただ、戦場を去るのみ。私はこれで消えることにするわ……」 谷口「待ちたまえ、朝倉くん」 朝倉「え?」 谷口「素直に全てを、あるがままを受け入れたキミには、下衆流格闘術の真髄がきっと理解できているはず」 谷口「下衆流格闘術の真理が理解できたのなら、是非もない。早速始めようではないか」 朝倉「始めるって、なにを?」 谷口「何って。いやだなあ。ははははは」 谷口「子作りだよ」 朝倉「………え?」 朝倉「ええええええええええええええええ!!??」 朝倉「ちょwwwばwwwwwおまwwwwww離せカスwwwwwwww」 谷口「下衆流格闘術は性欲に「のみ」支えられた生命の神秘。その根源は性の営みに他ならない」 朝倉「死ねwwwwwwwwwwwww」 谷口「な? ええやろ姉ちゃん? 一発だけ、一発だけやし。な?」 朝倉「いきなり口調変えるなwwwwリアルすぎるwwwwwwwww」 谷口「ああもうたまらんわ。ノンスリーブ状態やわ。誰も見てないし。な? 先っぽだけならええやろ?」 朝倉「きめえwwwwwwマジで死ね下衆野郎wwwwwwwwwwww」 谷口「はあはあはあ!」 谷口「はふーはふー!」 谷口「辛抱たまらんわ! ふっじこちゅわああぁぁぁぁん!」 朝倉「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」 ~~~~~ ハルヒ「昨日部屋の掃除してたらね。こんなものが出てきたのよ」 キョン「何だこれ。中学校の卒業アルバムか」 ハルヒ「中学の時は学校生活が楽しいなんて思ってなかったし、アルバムなんて興味なかったから押入れの中にずっと放り込んでたのよね」 ハルヒ「偶然見つけたから、ちょっと見てみようかななんて思って、掃除の休憩がてら開けてみたのよ」 キョン「へえ。このクラスにいる奴も何人か写ってるな」 ハルヒ「おかしいと思わない?」 キョン「おかしい? なにがだ?」 ハルヒ「谷口よ。あいつの写ってる写真、どれを見ても不思議なくらい普通の中学生男子なのよ。あいつ」 キョン「なんだそりゃ」 キョン「……本当だ。どれを見ても、あいつがまともな男子生徒として写ってるな。お調子者っぽい雰囲気はあるが、それもいたって普通のレベルの話だ」 ハルヒ「ね。おかしいでしょ。あいつがあの変質者オーラを発散せずに全ページにわたって普通に写ってるなんて」 キョン「やつの特異性を恐れた中学校の教師たちが、意図的に普通の写真を選んで載せてるんじゃないのか?」 ハルヒ「私も最初はそう思ったのよ。卒業写真なんだし、クラスの汚点を形に残したくなかった担任教師がそうしたんじゃないかってね」 ハルヒ「でもね。おかしいのよ。意識して思い出そうとしなければ思い出せなかったんだけど、私の記憶の中の谷口はそのアルバムに載っている普通の谷口のようにどこにでもいるごくごく一般的な中学生だったのよ」 キョン「どういうことだ?」 ハルヒ「つまり。私の記憶が正しければ、中学の頃の谷口は普通人だったってこと。それが何故か、高校に進級すると同時にまるで人が変わったように異常な変態下衆人間に変貌してしまったの」 キョン「いまいち要領をえないが、お前は今の谷口が、中学の頃のあいつとは別人だと言いたいのか?」 ハルヒ「違うの。中学の頃の谷口と今の谷口は同一人物よ。でも、それは外見的な話。中身はキョンの言うとおり、全くの別人といっても差し障りないわ」 ハルヒ「どうしてこんなこと、今まで気づかなかったのかしら! 何故、谷口は高校に入学すると同時にあそこまで変態になってしまったの!?」 キョン「……まさかハルヒ……お前がそうあってほしいと望んだからって言うんじゃ……」 キョン「でも、進級や転校を機にいきなり変身しちまうやつっているだろ。高校デビューとかさ、そんな感じの」 ハルヒ「高校に入って不良になるとか言う話なら、まああるけど。いきなり何の前触れもなく性格が一変するなんて常識的に考えてありえないでしょう。事故で頭を打って前世の記憶にでも目覚めたっていうの?」 キョン「いや、そこまで言うつもりはないけどさ……。でも、目の前で起こっている事実だけが全てであってだな。いろいろ推測したってそれをひっくり返せるわけでもなし。無駄なことだと思うがなあ。この話は、そういうことでケリをつけておこうぜ。深く考えるだけ無駄だ」 ハルヒ「いえ。こういうことはね、キョン。過程が大事なのよ。ひょっとしたら、あいつは高校入学の直前にUFOに攫われて頭に怪しげなチップを埋め込まれて性格豹変したという可能性だってあるのよ!」 キョン「頼むから、そんなことを真面目に望んだりしないでくれよ」 ハルヒ「ともかく! 谷口は中学の時はおっちょこちょいの三枚目お調子者だったけど、普通の男子生徒だった! これは動かぬ事実よ! 中学卒業後、あいつに何かがあった! それは間違いない!」 キョン「おいハルヒ。一言、言っておくぞ」 ハルヒ「なによ」 キョン「この世にはUFOも存在しないし、前世の記憶に目覚めるようなムー大陸の戦士もいないんだ。そういうのは、一部の人間が面白おかしくそう囃し立てていて、お前みたいなのが騙されているだけなんだ」 キョン「不思議なことなんていうのはな、そうそう身の回りに転がっているもんじゃないってお前自身が言ってたじゃないか」 ハルヒ「………」 ハルヒ「うるさいわね、バカキョンのくせに!」 キョン「いてっ! たたくなよ!」 ハルヒ「ふんっ!」 キョン「おい、逃げるな!」 ハルヒ「……そうよね」 ハルヒ「キョンの言うとおりだわ」 ハルヒ「この世に不思議なことなんて、そうそうあるわけない」 ハルヒ「でも、私ははっきり覚えている。中学の頃の谷口はまともな一般人だった」 ハルヒ「それじゃあ、今の谷口は?」 ハルヒ「………」 ハルヒ「今の谷口は、普通なのよ」 ハルヒ「そうよ。それなら説明がつくわ」 ハルヒ「不思議なことなんて何もなかった。中学の頃の谷口は普通だった。そして今も谷口は普通の高校生」 ハルヒ「それなら何の問題もないわ」 ハルヒ「きっと、そうなのよ」 ~~~~~ 朝倉「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」 谷口「えっへっへwwwwwwいただきマンモスwwwwwwwww」 谷口「え? えへぇ?」 谷口「ふひっ!? なんだこの光は!?」 谷口「ふわ、ふわわ!? うひぃ! 光が、光が俺の身体をつつみこむ!」 谷口「あわわわわわ……! 俺の、俺の頭の中が真っ白けになってく……!」 朝倉「こ、これは……! 涼宮ハルヒの情報改変! な、なんていう膨大な情報フレア……」 谷口「はひ~~~~~! 俺の、俺の存在がきえていくぅ!」 谷口「だ、だだ……」 谷口「だっふんだ!」 朝倉「………」 朝倉「……きえた……」 朝倉「谷口が、情報空間内から消失した……」 朝倉「何が……起こったの?」 朝倉「何はともあれ………貞操の危機はまぬがれたようね」 最終回へつづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4769.html
空と君とのあいだには/朝倉涼子の発現 言葉にできない の続編みたいな 第一話 第二話 第三話 第四話 第五話 第六話(完結)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3881.html
前回のあらすじ 涼宮ハルヒの情報観測の邪魔をする存在、下衆谷口。 そんな谷口の下衆加減に業を煮やした情報統合思念体の急進派がついにキレた。 再度、有機生命体として現れた朝倉涼子が、長門、喜緑とのアットホームドラマを繰り広げてついに動き出した! 谷口「ふほほ。インターネッツは便利なものでございますな」 谷口「18歳未満でも 『はい』 とか 『I agree』 とか 『承認する』 とか勝手にHOIHOIクリッコしていけば、お宝映像がフォルダー内にざっくざく」 谷口「徳川埋蔵金なんて目じゃないね!」 谷口「谷口です」 朝倉「ぁどっこいしょお!」 どかん! 谷口「ふふん!? インターネッツに夢中になっている俺のマイルームドアを蹴り破って誰かが侵入してきただと!?」 谷口「敵襲! 敵襲! 身の程知らずの不埒者が現れおったぞよ! 者ども、出あえ出あえ!」 谷口「あ、今ひらめいた! 『出あえ出あえ』って、『出会え出会え』 と言うとなんかAVのタイトルっぽくて卑猥! なんという発見www」 谷口「ゲスゲスゲスwwww」 朝倉「問題発言! 猥褻罪の現行犯よ! 刑執行! ネット上での年齢詐称も合わせ技で即死刑、刺殺決定!」 谷口「ぎゃひん! ワイルド7が現れた! 猥褻罪ってなんだ!? 年齢詐称ですいません! 馬鹿田大学卒業生の24歳って言う設定でインターネッツやってました!」 朝倉「謝っても赦してあげないわよ! 謝って済んだら法治国家はいらないんだから!」 朝倉「よって即排除決行! この99人の有機生命体の生き血をすった刃渡り80cmナイフ、朝倉丸で下腹部を思くそこねくりまわして あ げ る !」 谷口「いやん、めっさ日本刀! こんなモラリストにはついていけないから実家へ帰らせていただきます!」 がしゃん 朝倉「ちっ。窓ガラスを割って外へ逃げたか。けど、朝倉丸の刃から逃れらると思わないことね!」 ~~~~~ 谷口「はあはあはあ!」 谷口「いったい、いったい何なんだこの状況は!?」 谷口「俺が自室でハイパーセルフネットサーフィンしてたら、日本刀を持った帰国子女が俺に斬りかかってきた!?」 谷口「これじゃあ三流スプラタホラーのワンシーンじゃないかよ!」 谷口「え、嘘!? これってホラー映画の撮影中なの!? いやん、今日お化粧してきてないよ!」 谷口「映ってる? ねえ、映ってる? おーい、北高のみんな見てるか!?」 朝倉「逃がさないわよ! イッツショータイッ!」 谷口「イッツショートタイツ!? 確かにタイツは好きだけど! できれば黒でお願いします!」 朝倉「悪いけど、私はスパッツ派なのよね」 朝倉「この空間内では私が圧倒的有利! 私の意に背くことは叶わないのよ!」 谷口「バカな、どこまで走っても逃げ切れない! 夜とは言え、通りに人がまったくいない!?」 谷口「しまった、もう逃げ道が……!」 朝倉「さあ、もう満足いくまで足掻けたかしら?」 谷口「お前、何の目的でこんなことを……金ならないぞ!」 朝倉「金? あはは。そんな物には興味ないって。用があるのは、あなたの身体だけ」 谷口「はあはあはあ。身体ですとな!? まさかのエロゲ展開!」 朝倉「そうよ。あなたの身体」 谷口「ま、まさか、俺の股間の 【禁則事項です】 とか、さらにその下についている 【禁則事項です】 とか、あまつさえ裏側にある 【禁則事項です】 までも狙っているのでは……はあはあはあ! これはこれで興奮を隠し切れないSMプレー!」 朝倉「そうねえ。あなたの股間の 【禁則事項です】 を朝倉丸でそぎ落としてみるのも面白そうだわ。さらにその下についている 【禁則事項です】 を卵をつぶすようにすり潰して、さらにさらにその裏側にある 【禁則事項です】 に朝倉丸の柄をつきたててあげるのも楽しそうね」 谷口「うふん、SM超上級者!」 朝倉「私ね、赤い液体とかひねり出すような悲鳴とか、そういうものが大好きなの」 朝倉「あ、もちろん性的な意味で」 朝倉「有機生命体のすべすべした肌がぱっくり破れて、中からぶくぶくって泡をあげながら血があふれてくるのって、とてもファンタスティックだと思わない?」 朝倉「痛みに耐え切れずに悲鳴をあげているのを聞いていると自分が確かにここに存在していて、他の存在に対して影響を及ぼしているっていう実感と達成感がえられて心が満たされるじゃない」 朝倉「じわじわ汗をにじませながら目尻や額にしわを寄せて苦しむ人を見ていたら、とてもカタルシス的な色気を感じるじゃない?」 朝倉「意思を持つものが意思を持ち続ける上で絶対に必要なことは、征服感なのよ。他者よりも自己こそが勝っていると言う証明を求める。それこそが意識を持つ存在特有の本質であり、それを満たしてこそエクスタシーを感じ資格があると言っても過言ではないでしょう」 朝倉「私には有機生命体の死というものがよく理解できないのだけれど、あなたの死を実感できれば、もしかしたら私も逆説的な意味で生というものを感じることができるかもしれないわ」 朝倉「だから。ね。私のために血だるまになってよ」 谷口「このシリーズ始まって以来、様々なタイプの変態さんたちに出会ってきたけれど。サディスティックウーマンは始めてのタイプだわ」 朝倉「最終回直前にふさわしい展開でしょ?」 谷口「なにをもってふさわしいと言えるのか謎だが、これじゃおちおち下衆イズムを発揮してらんないぜ!」 谷口「とにかく、そんな理解不能なお遊びにニャンニャン付き合ってる暇はないんだ! 俺は逃げるぜ! あーばよ、とっつぁん!」 朝倉「うふふ。逃がさないわよ」 谷口「ふぐお!? な、なんだこれは。まるで金縛りに遭ったかのように身体が動かない!」 朝倉「これで逃げられないわね。手こずらせてくれちゃって」 谷口「ちくしょう……どうせ身体の自由を奪うんなら、超能力じゃなくて亀甲縛りの緊縛プレーだろ常識的に考えて」 朝倉「さあ、うふふ。身動きできないあなたの全身の皮を剥ぎ落として、余すところなく皮下組織をなめまわしてあげるわ」 谷口「ちょwwwさすがの俺もこれは引くわwwwww」 朝倉「どうぞ。抵抗してくれてけっこう。その方が楽しいものね」 谷口「くそ、このままじゃ谷口さんがスライスチーズにされてしまう! 【禁則事項です】 が 【禁則事項だYO】 になっちまう!」 谷口「くそ、くそくそ! 動け、俺の身体! 動いてあの刃を避けてくれ!」 朝倉「それじゃ、そろそろ死んで」 谷口「頼む! 俺に、俺に力をわけてくれ、藤原!」 ~~~~~ 藤原「むふふ。今日も大漁大漁」 藤原「これだから電車でGOはやめられない!」 藤原「ん? なんだ?」 藤原「どこからともなく、谷口氏の声が聞こえるぞ」 藤原「しかも俺に助けを求めているようだ」 藤原「谷口氏、谷口氏、どこにいる!? うむむ、まさか彼の身に何らかのアクシデントが!」 藤原「谷口氏、俺が今からパワーを送る! 我が痴漢電車パワーを受け取るがいい!」 藤原「いくぞ!」 藤原「ほわあぁぁぁぁぁぁい!!」 藤原「マッガーレ」 ~~~~~ 谷口「でりゃあああ! 真剣白羽取り!!」 朝倉「なっ!? そんな、谷口は私の情報干渉によって動けない身体のはずなのに!」 谷口「ふふふ。お前が何者なのかは知らないが、変な力で俺の動きをとめたって、そんなの関係ねえ!」 谷口「我が友、藤原が痴漢パワーを送信してくれたおかげで俺の腕と上半身が動くようになったのさ!」 朝倉「そんなバカな……。し、しかし。まだ私の優位は変わらない! 今度はその足から斬りとってあげるわ!」 谷口「や、やばい。上半身はなんとか動くようになったが、下半身までは……!」 谷口「中河、中河! 俺を助けてくれ!」 ~~~~~ 中河「大漁大漁。大漁にござる」 中河「アメフト冥利につきるというものですな。ハットハットハット!」 中河「ぬふ。つるつるシルクの手触りパンティwwwww」 中河「ん、ん~?」 中河「今、どこからもともなく谷口殿の叫びが聞こえたような」 中河「はっ! まさか、今まさに谷口殿は敵と交戦中なのでは!?」 中河「こうしてはいられない。今すぐ我がアメフトパンティ力を送信してあげざるをえない!」 中河「いくぞ谷口殿! 受け取ってたもれ! むむむむむ……」 中河「フタエノキワミ! アッー!」 ~~~~~ 谷口「カモシカの足ジャンピング!」 朝倉「そんな! 上半身だけでなく、下半身までも情報干渉下において自由に動かせるなんて!」 谷口「みたか朝倉涼子! これが我々、刎頚の友の力だ!」 朝倉「たまたま、そう、たまたまよ! 私の情報空間がやぶられるわけなんてない!」 朝倉「直接攻撃がダメなら、こういう手はどう!?」 谷口「なに!? 周りに落ちていた石ころが槍に姿を変えて襲い掛かってくる!?」 谷口「四方八方から襲い掛かられては逃げ場がない!」 朝倉「今度こそ、とった!」 谷口「老師、老師! 我が師、老師よ!」 ~~~~~ 鶴屋(老)「ほっほっほ。わしが産婦人科の鶴屋医師じゃ」 鶴屋(老)「さあさあこっちに来てごらんマタニティ」 ぴきーん 鶴屋(老)「むっ! こ、この声は……我が弟子のひとり谷口の魂の叫び声!」 鶴屋(老)「こうしちゃおれん。マタニティへのセクハラは後と回しじゃ」 鶴屋(老)「わしの至上因業念動力を受け取るのじゃ!」 鶴屋(老)「みょあああああああああああああああ!!」 鶴屋(老)「エッチスケッチワンタッチ」 ~~~~~ 朝倉「今度こそもらった! 谷口の串刺しのいっちょうあがりだわ! zkzk!」 谷口「甘いぞAAランク+少女!」 谷口「これが、これが老師より受け継いだ奥義だ! ふああああぁぁぁぁ!!」 谷口「秘奥義、爆肉性欲壁!」 朝倉「なっ!? そんな! 谷口の身体が異様なほど筋肉で膨れ上がり、鉄をも貫く朝倉アローを跳ね返したですって!?」 谷口「むふー。むふふー」 谷口「見たか朝倉涼子よ。これこそが下衆流格闘術奥義、爆肉性欲体よ」 谷口「下衆流格闘術の真髄は人間の三大欲求のうち、食欲、睡眠欲の二つを全て消し去り、性欲だけを特化させることにある」 朝倉「な、なんですって!? 有機生命体の三大欲求といえば、自己の存在を支えるもっとも根幹となる部分。その二つまでを性欲に組み替えるなんて……その強大さは、まさにビックバン!」 谷口「その性欲をそっくりそのまま筋肉組織に置換することにより、機関銃をも跳ね返す強靭な肉体が完成するのだ」 谷口「ああ。聞こえるぞ。世界が、宇宙が、森羅万象が、この俺を讃える声……」 たっにぐち! たっにぐち! たっにぐち! 谷口「我が下衆流性欲制御術は、いわば生の術。自らを守り、人を守り、子孫を残す。そこには生物としてあるがままの姿がそのまま投影されているのだ」 谷口「その在り様は、まさに偉大なる自然そのもの。我が強さと健康の秘訣は、ナチュラルパワーにこそある」 朝倉「しかし、しょせんはそんなものは愚かな有機生命体の足掻きにすぎないのよ。死を司る私の朝倉丸が、下衆流格闘術など児戯にも劣る子供だましだということを証明してあげる!!」 谷口「面白い。そう思うのなら、かかってきなさい。今こそこの、生と死、表と裏、光と闇の戦いに終止符を打つ時なのだ」 朝倉「小細工は弄さないわ。行くわよ、朝倉丸!」 谷口「この反りかえる雄々しき肉体を恐れぬのなら、かかってきなさい!」 朝倉「てああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 谷口「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 カッ!! ~~~~~ 朝倉「ぐふっ!」 朝倉「そ、そんな……無敵のはずの、私の朝倉丸が……砕けるなんて……」 谷口「ふん。この美しき逆三角形の肉体美に、そのような怪しげな刃物など通用しないのだ」 朝倉「……負けたわ。しょせん有機生命体の浅知恵よと侮った私の完敗」 谷口「ようやく分かったようだね朝倉ガール」 谷口「人間は自然の一部。それを忘れ、いかに文明科学を発達させようとも、大自然の手の上から逃れることは不可能。自然を味方につけ、生物の理を真に理解した我が下衆流格闘術にまやかしの刃など通じないのだよ」 朝倉「生物のもつ命の力がこんなにも強いものだったなんて。私は勘違いをしていたみたいね。それに気づかなかった私は、やっぱりただの愚かなバックアップだったのね……」 朝倉「迷惑をかけたわね、谷口くん。敗者はただ、戦場を去るのみ。私はこれで消えることにするわ……」 谷口「待ちたまえ、朝倉くん」 朝倉「え?」 谷口「素直に全てを、あるがままを受け入れたキミには、下衆流格闘術の真髄がきっと理解できているはず」 谷口「下衆流格闘術の真理が理解できたのなら、是非もない。早速始めようではないか」 朝倉「始めるって、なにを?」 谷口「何って。いやだなあ。ははははは」 谷口「子作りだよ」 朝倉「………え?」 朝倉「ええええええええええええええええ!!??」 朝倉「ちょwwwばwwwwwおまwwwwww離せカスwwwwwwww」 谷口「下衆流格闘術は性欲に「のみ」支えられた生命の神秘。その根源は性の営みに他ならない」 朝倉「死ねwwwwwwwwwwwww」 谷口「な? ええやろ姉ちゃん? 一発だけ、一発だけやし。な?」 朝倉「いきなり口調変えるなwwwwリアルすぎるwwwwwwwww」 谷口「ああもうたまらんわ。ノンスリーブ状態やわ。誰も見てないし。な? 先っぽだけならええやろ?」 朝倉「きめえwwwwwwマジで死ね下衆野郎wwwwwwwwwwww」 谷口「はあはあはあ!」 谷口「はふーはふー!」 谷口「辛抱たまらんわ! ふっじこちゅわああぁぁぁぁん!」 朝倉「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」 ~~~~~ ハルヒ「昨日部屋の掃除してたらね。こんなものが出てきたのよ」 キョン「何だこれ。中学校の卒業アルバムか」 ハルヒ「中学の時は学校生活が楽しいなんて思ってなかったし、アルバムなんて興味なかったから押入れの中にずっと放り込んでたのよね」 ハルヒ「偶然見つけたから、ちょっと見てみようかななんて思って、掃除の休憩がてら開けてみたのよ」 キョン「へえ。このクラスにいる奴も何人か写ってるな」 ハルヒ「おかしいと思わない?」 キョン「おかしい? なにがだ?」 ハルヒ「谷口よ。あいつの写ってる写真、どれを見ても不思議なくらい普通の中学生男子なのよ。あいつ」 キョン「なんだそりゃ」 キョン「……本当だ。どれを見ても、あいつがまともな男子生徒として写ってるな。お調子者っぽい雰囲気はあるが、それもいたって普通のレベルの話だ」 ハルヒ「ね。おかしいでしょ。あいつがあの変質者オーラを発散せずに全ページにわたって普通に写ってるなんて」 キョン「やつの特異性を恐れた中学校の教師たちが、意図的に普通の写真を選んで載せてるんじゃないのか?」 ハルヒ「私も最初はそう思ったのよ。卒業写真なんだし、クラスの汚点を形に残したくなかった担任教師がそうしたんじゃないかってね」 ハルヒ「でもね。おかしいのよ。意識して思い出そうとしなければ思い出せなかったんだけど、私の記憶の中の谷口はそのアルバムに載っている普通の谷口のようにどこにでもいるごくごく一般的な中学生だったのよ」 キョン「どういうことだ?」 ハルヒ「つまり。私の記憶が正しければ、中学の頃の谷口は普通人だったってこと。それが何故か、高校に進級すると同時にまるで人が変わったように異常な変態下衆人間に変貌してしまったの」 キョン「いまいち要領をえないが、お前は今の谷口が、中学の頃のあいつとは別人だと言いたいのか?」 ハルヒ「違うの。中学の頃の谷口と今の谷口は同一人物よ。でも、それは外見的な話。中身はキョンの言うとおり、全くの別人といっても差し障りないわ」 ハルヒ「どうしてこんなこと、今まで気づかなかったのかしら! 何故、谷口は高校に入学すると同時にあそこまで変態になってしまったの!?」 キョン「……まさかハルヒ……お前がそうあってほしいと望んだからって言うんじゃ……」 キョン「でも、進級や転校を機にいきなり変身しちまうやつっているだろ。高校デビューとかさ、そんな感じの」 ハルヒ「高校に入って不良になるとか言う話なら、まああるけど。いきなり何の前触れもなく性格が一変するなんて常識的に考えてありえないでしょう。事故で頭を打って前世の記憶にでも目覚めたっていうの?」 キョン「いや、そこまで言うつもりはないけどさ……。でも、目の前で起こっている事実だけが全てであってだな。いろいろ推測したってそれをひっくり返せるわけでもなし。無駄なことだと思うがなあ。この話は、そういうことでケリをつけておこうぜ。深く考えるだけ無駄だ」 ハルヒ「いえ。こういうことはね、キョン。過程が大事なのよ。ひょっとしたら、あいつは高校入学の直前にUFOに攫われて頭に怪しげなチップを埋め込まれて性格豹変したという可能性だってあるのよ!」 キョン「頼むから、そんなことを真面目に望んだりしないでくれよ」 ハルヒ「ともかく! 谷口は中学の時はおっちょこちょいの三枚目お調子者だったけど、普通の男子生徒だった! これは動かぬ事実よ! 中学卒業後、あいつに何かがあった! それは間違いない!」 キョン「おいハルヒ。一言、言っておくぞ」 ハルヒ「なによ」 キョン「この世にはUFOも存在しないし、前世の記憶に目覚めるようなムー大陸の戦士もいないんだ。そういうのは、一部の人間が面白おかしくそう囃し立てていて、お前みたいなのが騙されているだけなんだ」 キョン「不思議なことなんていうのはな、そうそう身の回りに転がっているもんじゃないってお前自身が言ってたじゃないか」 ハルヒ「………」 ハルヒ「うるさいわね、バカキョンのくせに!」 キョン「いてっ! たたくなよ!」 ハルヒ「ふんっ!」 キョン「おい、逃げるな!」 ハルヒ「……そうよね」 ハルヒ「キョンの言うとおりだわ」 ハルヒ「この世に不思議なことなんて、そうそうあるわけない」 ハルヒ「でも、私ははっきり覚えている。中学の頃の谷口はまともな一般人だった」 ハルヒ「それじゃあ、今の谷口は?」 ハルヒ「………」 ハルヒ「今の谷口は、普通なのよ」 ハルヒ「そうよ。それなら説明がつくわ」 ハルヒ「不思議なことなんて何もなかった。中学の頃の谷口は普通だった。そして今も谷口は普通の高校生」 ハルヒ「それなら何の問題もないわ」 ハルヒ「きっと、そうなのよ」 ~~~~~ 朝倉「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」 谷口「えっへっへwwwwwwいただきマンモスwwwwwwwww」 谷口「え? えへぇ?」 谷口「ふひっ!? なんだこの光は!?」 谷口「ふわ、ふわわ!? うひぃ! 光が、光が俺の身体をつつみこむ!」 谷口「あわわわわわ……! 俺の、俺の頭の中が真っ白けになってく……!」 朝倉「こ、これは……! 涼宮ハルヒの情報改変! な、なんていう膨大な情報フレア……」 谷口「はひ~~~~~! 俺の、俺の存在がきえていくぅ!」 谷口「だ、だだ……」 谷口「だっふんだ!」 朝倉「………」 朝倉「……きえた……」 朝倉「谷口が、情報空間内から消失した……」 朝倉「何が……起こったの?」 朝倉「何はともあれ………貞操の危機はまぬがれたようね」 最終回へつづく